改訂新版 世界大百科事典 「マメジカ」の意味・わかりやすい解説
マメジカ (豆鹿)
chevrotain
mouse deer
角がなく上の犬歯がきば状に発達する原始的なシカの仲間。偶蹄目マメジカ科Tragulidaeの哺乳類の総称。ネズミジカともいう。アフリカ西部と中部およびアジアの中南部と南東部に2属4種が分布する。体長40~85cm,尾長2.5~15cm,肩高20~36cm,体重1.7~15kg。体はずんぐりとしており,背が丸く,腰が高い。四肢は細く4指があるが,地に着くのは中央の2本(第3,4指)だけで,他の指(側指)は小さく接地しない。しかし側指の中手骨と中足骨は完全で,原始的なことを示す。頭は小さく口が細くとがり,鼻は裸出し鼻鏡となる。目は大きく,眼下腺はない。胃は4室に分かれ反芻(はんすう)するが,第3胃がごく小さく3室に見える。
アフリカには最大種のミズマメジカHyemoschus aquaticus(英名water chevrotain)1属1種があるのみで,体長75~85cm,体重10~15kgで,シエラレオネからウガンダ西部の低地の森林に生息する。体は深い褐色で,背には多くの白点が横に並び,あごから首の横,肩からしりにかけての体側に2~3本の白線がある。繁殖期以外は単独で,おもに夜行性。水辺を好み,地上に落ちた果実のほか,草,水草,ユリの根なども食べ,敵に襲われると水中にとび込んで逃げる。妊娠期間6~9ヵ月で,1年に1回,ふつう1産1子を生む。寿命は13年強と考えられている。
アジアには1属3種がある。インドマメジカTragulus meminna(英名Indian chevrotain)はインドとスリランカに分布するが,体色と斑紋はミズマメジカに似る。しかし,腹が後方まで白く,耳介の先はとがり,丸くない点で異なる。森林にすみ,岩の割れ目などを休息場とし,イヌなどに追われると中が空洞になった大木の内側をよじ登って逃げるといわれる。草や低木の葉,落ちている果実やイチゴなどを食べる。偶蹄類中最小のジャワマメジカT.javanicus(英名smaller chevrotain)は体長40cm,体重1.7kgほどで,インドシナ,マレー半島,スマトラ,ジャワ,ボルネオなどに分布する。体背面は赤褐色ないし灰褐色で,体側はやや淡く,白色の斑紋はないが,頭頂部から背に黒毛が生える。このほかオオマメジカT.napu(英名larger chevrotain)があるが,分布,体色など前種とよく似ている。大型で,飼育下で14年生存した記録がある。
執筆者:今泉 忠明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報