日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミツクリザメ」の意味・わかりやすい解説
ミツクリザメ
みつくりざめ / 箕作鮫
軟骨魚綱ネズミザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。ミツクリザメ科Mitsukurinidaeはミツクリザメ属MitsukurinaのミツクリザメM. owstoni1属1種からなる。ミツクリザメ(英名goblin shark)は柔らかい体、扁平(へんぺい)な長い吻(ふん)、非常に突出しやすい口、釘(くぎ)状の鋭い歯などをもつのが特徴である。ミツクリザメは横浜沖の深海で捕獲された個体に基づいて、アメリカの魚類学者ジョーダンDavid Starr Jordan(1851―1931)により、1898年(明治31)に新科新属新種として発表された。その科名と属名は本種の報告に貢献した東京大学の動物学者であった箕作佳吉(かきち)に、種名は発見者のイギリス人オーストンAlan Owston(1853―1915)に捧げられたものである。最初は日本特産のサメと考えられていたが、深海調査が進むにつれて世界各地に分布することが明らかになった。日本では東京湾、相模湾(さがみわん)や駿河湾(するがわん)などから採集されている。
ミツクリザメは深海性で、水深1300メートルくらいまでの大陸斜面に生息し、魚類やイカ・タコ類などを食べる。餌(えさ)が少ない深海域にすみ、遊泳力が弱いため、餌を追いかけてとらえるよりは、静かに獲物に近づき、上下両顎(りょうがく)を一瞬で大きく前方に押し出して、油断している獲物をつかまえるという効率的な摂餌(せつじ)方法を獲得した、と考えられている。生殖方法は不明であるが、ネズミザメ目に属することから、食卵型の胎生であると考えられる。全長6メートルほどになる。学問的には貴重なサメであるが産業的には価値がない。水族館で飼育が試みられているが、現状では長期飼育はむずかしい。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、低懸念(LC)とされている(2021年9月時点)。
[仲谷一宏 2021年10月20日]