アメリカの哲学者。ハーバード大学教授。その著《正義論A Theory of Justice》(1971)において,功利主義に取って代わるべき実質的な社会正義原理を〈公正としての正義justice as fairness〉論として体系的に展開し,規範的正義論の復権をもたらした。平等な基本的自由を保障する原理の優先が強調され,最も不利な状況にある人々の利益の最大化のための社会経済的不平等が正当化されるとする〈格差原理〉が提唱されているところに,その正義原理の内容的特徴がみられる。〈原初状態〉という仮説的状況で自由・平等な道徳的人格者たちが全員一致で合意するものとしてこのような正義原理が導出・正当化されるという,社会契約説的構成がとられており,このような方法論は,自律性と定言命法に関するカントの考え方を手続的に解釈した〈カント的構成主義〉と名づけられている。
執筆者:田中 成明
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…個人主義的な原理に立脚しながら社会的厚生を判断するための基準を導くことが可能かどうかをめぐって,種々の仮説が検討されてきた。J.R.ヒックスやN.カルドアによるいわゆる新厚生経済学,K.アローやA.センによる社会的選択理論あるいはJ.ロールズによる社会契約の理論などがそれである。総じていえば,個人主義の前提に立つかぎり,諸個人のあいだの同質性をなんらかのかたちで仮定するのでなければ,社会的厚生の判断基準を組み立てるのは困難である。…
…歴史的には20世紀の初めまでに政治的権利の平等が達成され,20世紀になって,経済的,社会的権利の平等が課題となった。1931年に書かれたR.H.トーニーの《平等Equality》は,道徳観に立脚した平等論というべきだが,最近の理論的な公正論として,J.ロールズの《公正の理論The Theory of Justice》がある。第2に,社会的ニーズと資源の関係の議論が続いている。…
※「ロールズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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