環境会計(読み)かんきょうかいけい(英語表記)environmental accounting

日本大百科全書(ニッポニカ) 「環境会計」の意味・わかりやすい解説

環境会計
かんきょうかいけい
environmental accounting

企業の環境保全への取組みを定量的に計算、評価する仕組みのことをいう。すなわち、事業活動における環境保全のためのコストとその活動により得られた環境効果を認識し、可能な限り貨幣単位または物量単位に測定して公表するものである。日本では、環境会計に関する法律や規制はなく、企業の自主的な取組みによるものとされている。そのため、導入しているのは大手企業が中心であったが、より多くの企業に環境会計を普及させるために、1999年(平成11)から環境省が環境会計のガイドラインを公表している。環境省のガイドライン2005年(平成17)版においては、次のような環境会計の必要性が述べられている。

(1)環境会計における環境保全コストや環境保全対策の効果を把握することが企業経営を健全に進めるための不可欠の要素である(内部機能)。

(2)環境会計を公表することが企業の環境経営への取組みの姿勢を表すことになり、外部から企業を評価する場合の経営尺度の一つとなる(外部機能)。

 環境省が勧める環境会計は、環境保全のためのコストと効果を対比して示す様式になっている。環境保全コストは、事業活動を環境負荷との関係から主たる事業活動、管理活動、研究開発活動、社会活動およびその他の領域に分けて集計する。効果には、事業活動により環境負荷をどのくらい抑制・回避できたかを示す環境保全効果(物量単位)と、事業収益にどのくらい貢献できたかを示す環境保全対策に伴う経済効果(貨幣単位)に区分して集計する。

 このような環境会計は、財務会計と管理会計にみられるような会計数値相互の機能的関係や会計上の損益計算としての位置づけが不明瞭(ふめいりょう)なことから、内部管理会計目的として活用するには不十分であり、なんらかの内部管理のための環境会計手法が必要とされた。そこで、経済産業省は、1999年から内部環境会計の普及促進のため、内部管理のための環境会計手法の構築を進め、2002年に「環境管理会計手法ワークブック」を公表し、新しい環境会計であるマテリアルフローコスト会計(material flow cost accounting:MFCA)を発表した。これは、従来の伝統的原価計算とは異なる概念により環境コストとその効果を示したものである。すなわち、従来の製品別原価計算は、価値のない不良品や仕損じ品は特別に原価を集計しないで、それらにかかった原価を製品に負担させることにしていた。いいかえれば、製造過程で出た不良品や仕損じ品の材料費も加工費も処分費もすべて製品の原価を構成することになる。しかし、MFCAでは、マテリアル(材料)のフロー(流れ)に着目して、各工程でどれだけの良品と不良品が生じたかを明らかにし、不良品にも処分費だけでなく材料費や加工費も負担させる。その結果、MFCAでの製品原価単価は、従来の原価計算で材料のロスがいっさいなかった場合の単価となり、歩留り(良品率)にかかわらず一定となる。その分、不良品について、材料費、加工費、処分費を工程別に把握し、各工程のロス金額を明瞭に計算することができる。このデータにより、不良品の発生源を明らかにして、その発生を減らすことにより廃棄や処分コストを減らし、かつ廃棄物等の環境負荷も減らすことができる。このMFCAは、日本が主導して国際化を進め、2011年、ISO14051(MFCA)として国際標準規格化された。

[中村義人 2022年11月17日]

『経済産業省『環境管理会計手法ワークブック』(2002)』『國部克彦・伊坪徳宏・水口剛著『環境経営・会計』第2版(2012・有斐閣アルマ)』『國部克彦・中嶌道靖編著『マテリアルフローコスト会計の理論と実践』(2018・同文舘出版)』『〔WEB〕環境省『環境会計ガイドライン2005年版』(2005) http://www.earth-vision2020.jp/material_member/content/40-2/guide2005.pdf(2022年7月閲覧)』

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知恵蔵 「環境会計」の解説

環境会計

市場経済では評価されない、企業の環境にかかわる活動及び影響を認識・把握して、主として貨幣単位で測定・評価し、その結果を会計情報として企業の内部及び外部の利害関係者に伝達する会計。2002年3月に環境省が公表したガイドラインによれば、(1)企業の財務パフォーマンスに関連する環境保全コスト、(2)環境保全活動に伴う経済効果、(3)環境パフォーマンスである環境保全効果、という3つの要素から成り立つ。企業外部へ報告し、環境コミュニケーションのツールとして役立てる外部環境会計と、環境会計情報を把握・管理することにより、企業内部の経営管理に資する内部環境会計とがあり、両者の有効な統合が課題となっている。主として貨幣計算レベルの情報に基づくが、非貨幣計算レベル及び記述情報レベルを含む場合もあり、広義の環境会計と呼ばれる。環境経営を支える中心的な手段の1つとして、原材料のロスに注目したマテリアルフローコスト会計も発展してきている。環境省による05年度『環境にやさしい企業行動調査』によれば、2691社中790社が環境会計を「既に導入している」と回答。

(植田和弘 京都大学大学院教授 / 2008年)

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「環境会計」の解説

環境会計

企業が環境保全のために投じたコストと効果を数値化して評価する会計手法のこと。CSR(社会的責任)に対する意識の高まりとともに、上場企業を中心に導入する企業が増加。特に、「環境に配慮している企業」という点をアピールすることで、消費者や投資家に対して、企業のイメージアップやブランド価値の向上につながるとの判断から、環境省が定めたガイドラインに沿って、「環境報告書」を作成する企業は多い。国内では日本IBM、富士通、ソニー、トヨタなどが早くから導入。企業の戦略的なツールとして他社にも広がっている。

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会計用語キーワード辞典 「環境会計」の解説

環境会計

事業活動における環境保全コストとその効果を明確にし、可能な限り定量的に測定・伝達するしくみを環境会計という。企業が社会と良好な関係を保ちつつ環境保全に対して効果的・効率的に取り組むのを目的とする。環境会計には、適切な経営判断を通じて効率的・効果的に環境保全への取り組みを促す内部機能と情報開示によって、消費者や取引先など外部の利害関係人の意思決定に影響を与える外部機能がある。環境会計の構成要素は環境保全コスト、環境保全効果、環境保全対策に伴う経済効果の3つがある。

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世界大百科事典(旧版)内の環境会計の言及

【会計学】より

…企業内環境を改善することによって上記の目的を達成しようとするために,社会心理学,近代組織論,統計学等学際的なアプローチを必要とする。(3)環境会計 企業が環境を保全し,社会的責任を遂行していく状況を会計的に測定し,情報化して開示しようとするもの。企業の環境保全努力の情報化に着目して環境会計とよぶが,社会責任遂行状況の会計情報化から社会責任会計ともいう。…

※「環境会計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」