企業外部の利害関係者の意思決定に役立てるために,企業の経済活動を固有な方法によって組織的・継続的に測定し,その結果を財務諸表によって報告する企業会計の機能領域。外部報告会計とも呼ばれ,内部報告会計としての管理会計と対置される。財務会計は,各種利害関係者のうち,株主や債権者のような資金拠出者を主たる報告対象としている。また,財務会計における固有な方法とは,複式簿記機構にもとづく期間損益計算にほかならない。期間損益計算は,企業資本の投下・回収・再投下の顚末(てんまつ)を計算的に追跡し,損益計算書によって,特定期間に企業資本に生じたプラス・マイナスの変化をフローの次元で明らかにし,貸借対照表によって,特定時点の企業資本の大きさをストックの次元で明らかにする。財務諸表による経営成績と財政状態との表示がそれである。株主や債権者は,それらの会計情報によって,企業の収益力や財務安全性などを判定し,資金拠出をめぐる意思決定を行うのである。なお財務会計は,会計情報の検証可能性や財務諸表の比較可能性,あるいは資金拠出者間の利害調整などを企図して,各国において〈一般に認められている会計原則〉や各種の法令によってそのあり方が制度的に規制され,独立の職業的会計士によって監査されることになる。そのような制度的規制を媒介にして,財務会計は,財務諸表開示制度と財務諸表監査制度とを特徴にした一種の社会的制度として成立するにいたっている。
日本では第2次大戦後,証券取引法(1948)や公認会計士法(1948)の制定,〈企業会計原則〉(1949)の公表などを契機に,上場株式会社に関する財務諸表開示制度と財務諸表監査制度とが成立した。財務諸表の作成および報告の個別具体的な手続は,期間損益計算の諸ルールを体系化した企業会計原則に準拠することを要請された。しかし日本では1899年以来,商法が株式会社の配当規制に関連して,不十分ではあったが企業会計に対する法的規制を行ってきた。商法は1962年と74年とに企業会計原則の諸ルールを大幅にとりいれて,計算諸規定を法制化した。同時に,監査特例法(1974)は大会社について,公認会計士による財務諸表監査を商法の枠組みに包摂した。このようにして,日本の財務会計制度は商法を基軸とする制度的構造を確立するにいたっている。財務会計は,法的規制の側面を強調して制度会計とも呼ばれている。
財務会計に関する研究は,損益会計,資産会計,負債会計,資本会計の各構成要素について,計算手続論や制度論を展開する。負債会計と資本会計とは,持分会計と総称されることもある。また株主や債権者以外の利害関係者に注目し,企業の社会的責任の達成度の開示を企図する見解も提唱されている。財務会計は,企業と社会との相互規定関係のもとで,新しい役割を期待されている。
執筆者:津曲 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
企業の外部利害関係者に対する財務報告を目的とした会計。企業会計は、大きく財務会計と管理会計に分けることができる。企業の外部利害関係者に対する財務報告を扱う会計が前者で、企業内部の経営者等のニーズに従って意思決定を行うための情報を提供する会計が後者であり、その重点に相違がある。よって、財務会計は外部報告会計ともよばれ、その手段として用いられるのが財務諸表とよばれる会計報告書である。
このような外部公表用の情報を利用する主たるグループ(利害関係者)には、債権者や株主などの典型的な利用者(資金提供者)のほか、企業の社会性の高まりから消費者や地域住民等広域にわたる。また、課税目的で政府等も利用する。
このような多くの企業の利害関係者に対する企業情報の伝達手段ゆえ、それを逆手にとって、経営者自らが情報の操作をして自社の状況をよくみせようとする、いわゆる粉飾決算が行われることがある。この利用の側面は情報の悪用にあたるのだが、そのようなことが生じないように会計基準のより厳格な設定と監査による情報の適正性の確保、企業自身のコンプライアンス(法令遵守)が不可欠となる。信頼される会計制度の構築がより有効な資金の最適配分のための前提となるからである。
これに係る日本の会計制度としては、金融商品取引法会計、会社法会計、税務会計の三つがあることから、トライアングル体制とよばれる。
[近田典行]
『飯野利夫著『財務会計論』3訂版(1993・同文舘出版)』▽『佐藤信彦・河崎照行・齋藤真哉・柴健次・高須教夫・松本敏史編著『スタンダードテキスト 財務会計論1 基本論点編』第3版(2009・中央経済社)』
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…研究対象となる企業の会計は主として営利企業すなわち株式会社やその集団などであるが,必要に応じて,学校法人,医療法人,団体等非営利企業の会計をも取り扱う。
[体系]
会計学はその領域を大きく会計学一般理論,財務会計論および管理会計論に三分することができる。(1)一般理論は広く財務会計論および管理会計論の双方の基礎をなす会計学の基本理論を意味している。…
…それらは,過去の取引活動の実績を事後的に測定することよりも,むしろ将来事象の見積りや予測などの事前的測定にウェイトをおくことになる。また,財務会計が法令などの制度的ルールに準拠することを要請されるのに対して,それらは,制度的ルールの制約からは自由であり,各個別企業において,目的に対する手段の有効性が問われるのである。 企業の管理実践が管理会計に与える目的は各種多様である。…
※「財務会計」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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