(読み)ひれ

精選版 日本国語大辞典 「鰭」の意味・読み・例文・類語

ひれ【鰭】

〘名〙
魚類・水生哺乳類の遊泳器官。平べったい板状または膜状のもの。魚類では体の中央線に沿ってあるものを奇鰭(きき)といい、その位置によって背びれ・臀(しり)びれ・尾びれがある。体側で左右対をなすものを偶鰭(ぐうき)といい、胸びれ腹びれがある。これは高等動物の前肢後肢に当たる。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② 料理で、魚の①のすぐそばの肉。
※四条流庖丁書(1489)「御肴には斎太のひれを可用」
クジラえら。〔和訓栞(1777‐1862)〕
④ ①のように、本体から左右に出っ張っている部分。また、本体に付属している部分。本体につけ加えた部分。おひれ。
※山槐記‐治承四年(1180)二月一日「尻皮、以熊皮鰭」
⑤ からだが太って横幅の広いこと。また、その人。転じて、羽振り・貫祿・おもみ。
雑俳・田みの笠(1700)「観音も阿彌陀堂ではひれがない」
⑥ 日本建築で、懸魚(げぎょ)鬼瓦などの左右につけた彫刻。普通は渦文・波文・唐草文などとする。〔紙上蜃気(1758)〕

はた【鰭】

〘名〙 魚のひれ。また、魚。《季・夏》
万葉(8C後)一九・四一九一「鵜川立ち取らさむ鮎の其(し)が波多(ハタ)はわれにかき向け思ひし思はば」

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デジタル大辞泉 「鰭」の意味・読み・例文・類語

ひれ【×鰭】

魚類や水生哺乳類の遊泳のための器官。魚類では体の正中線上にあって対をなさない背びれ・しりびれ・尾びれと、体側にあって対をなす胸びれ・腹びれがある。
日本建築で、懸魚げぎょ・鬼板などの左右につけた装飾的な刳形くりかた
冷却器などで、放熱のためにパイプの周囲などに取り付けた突出部。フィン
からだが太って横幅の広いこと。また、その人。転じて、貫禄。
「夕霧も頃日このごろは―がでえぶついたのう」〈洒・錦之裏

はた【×鰭】

魚のひれ。
鵜川うかは立ち取らさむあゆしが―は我にかき向け思ひし思はば」〈・四一九一〉

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改訂新版 世界大百科事典 「鰭」の意味・わかりやすい解説

鰭 (ひれ)
fin

水生脊椎動物の運動器官として体から突出する板状または膜状の構造物の総称で,形や発達状態は種類によって異なるが,体の駆動,平衡,舵などの役割を果たす。魚類では体の正中線上に沿って生じる不対鰭(ふついき)(無対鰭,正中鰭ともいわれる)と,体の左右に対をなして存在する対鰭(有対鰭,側鰭ともいわれる)とに分けられる。不対鰭には,体の背側に突出する背びれ,肛門の後方の腹側に突出するしりびれ,および体の後端に付属する尾びれがある。対鰭には胸びれと腹びれとがあり,胸びれと腹びれはそれぞれ陸上高等動物の前肢と後肢に相当する。ひれの構造は軟骨魚類と硬骨魚類とではやや異なる。軟骨魚類ではひれの表面は皮膚に覆われ,内部には角質の細長い鰭条fin ray(ひれすじともいう)が並び,基部は軟骨によって支えられる。硬骨魚類ではひれは細長い鰭条とこれらをつなぐ鰭膜とからなり,基部は担鰭骨によって支えられる。鰭条は強固な棘(きよく)になっている場合と,節目のある軟条になっている場合とがある。ニシンやサケなどのひれは棘を欠き,軟条のみを備え,マダイやカツオなどのひれは棘と軟条とを備える。サケの仲間には背びれ後方に1個の鰭条のない脂(あぶら)びれがある。またカツオ・マグロの仲間では背びれとしりびれの後方にそれぞれ数基の小離鰭と呼ばれるひれが並んでいる。コバンザメでは背びれの一部が変形して頭部背面の吸盤を形成しているし,ハゼの仲間では左右の腹びれは相接して吸盤状になっている。

 クジラやイルカなどの水生哺乳類でもひれが発達するが,すべて表面は厚い皮膚に覆われている。前肢は胸びれと呼ばれ,内部にはその骨格が発達するが,後肢は退縮し,骨の痕跡しか残っていない。尾びれは魚類と異なり,水平に広がる板状構造物であるが,内部には特別な骨格はなく,脊椎骨後端部の骨列が中心部にあるにすぎない。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鰭」の意味・わかりやすい解説


ひれ
fin

魚類その他の水生脊椎動物の体表にある遊泳用,平衡用の構造で,概して扁平な形をしている。体の正中線上にあるものを正中鰭あるいは無対鰭と呼び,魚の背鰭,尾鰭,尻鰭などがこれに相当する。正中線をはずれて対をなして存在するものを有対鰭と呼び,胸鰭,腹鰭がこれである。鰭の支えとして魚では鰭条があるが,これをもたない脂鰭もみられる。鰭条は角質 (軟骨魚類,たとえばサメの鰭) または骨質であり,また分類の重要な指標となる。

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