三科九旨(読み)さんかきゅうし(英語表記)sān kē jiǔ zhǐ

改訂新版 世界大百科事典 「三科九旨」の意味・わかりやすい解説

三科九旨 (さんかきゅうし)
sān kē jiǔ zhǐ

中国,孔子のつくった《春秋》の政治哲学に関する主張。《春秋》には《公羊伝(くようでん)》《穀梁伝》《左氏伝》の3学派があるが,このうち公羊学派のとなえた説で,後漢末に現れて漢代公羊学を集大成した何休によると,〈周を新とし,宋を故とし,春秋を以て新王に当つ。これ一科三旨なり〉すなわち天命が改まって新たに王となる場合,宋(殷)と周の子孫大国に封じて新王とともに三王とする。これは〈三統を存す〉といわれ,革命において過去の王朝をいかに処遇するかの原則を述べたものである。つぎに〈見る所は辞を異にし,聞く所は辞を異にし,伝聞する所は辞を異にす。これ二科六旨なり〉。つまり見る所とは孔子とその父の時代,聞く所とは孔子の祖父の時代,伝聞する所とは孔子の高祖や曾祖の時代をさすが,時代の異なるに従って君臣恩義に厚薄の差があるので,同じ事柄でも《春秋》の表現(記録のしかた)が異なるとされる。〈三世を張る〉といわれるものである。第3に〈その国を内にして諸夏を外にし,諸夏を内にして夷狄を外にし,夷狄が進んで爵に至る。これ三科九旨なり〉。これは〈外内を異にす〉といわれるものであり,自国と他国と夷狄との関係は三世によって違い,衰乱の世(伝聞する所)には自国の内治に努めて諸夏(中華諸国)を疎外し,升平の世(聞く所)には夷狄を疎外するものの諸夏に対しては自他区別をせず,太平の世(見る所)には諸夏はむろん夷狄も進化して世界はすべて一つになるという。歴史は衰乱から升平,さらに太平へと進むとする進歩史観を示したものとされる。三科九旨説は漢代公羊学の理論体系に重要な位置を占めるだけでなく,後世とりわけ清朝の公羊学に大きな影響をあたえるものとなった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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