幼保一体化(読み)ようほいったいか

日本大百科全書(ニッポニカ) 「幼保一体化」の意味・わかりやすい解説

幼保一体化
ようほいったいか

幼稚園保育所という所管の異なる二つの教育・保育施設の一体的運用を図ること。幼保一元化が幼稚園と保育所の制度統一をさすのに対して、幼保一体化は両者の関係を密接なものとし、その運用を弾力的、一体的に進めることをいう。

 日本の幼児教育・保育施設は、文部科学省所管の学校としての幼稚園と厚生労働省所管の児童福祉施設としての保育所に制度的に二元化されている。しかし、近年の少子化の進行や共働き家庭の一般化に伴う保育ニーズの多様化は、幼稚園の経営難や保育所入所待機児童の増加など、幼保の二元的制度下における問題を顕在化させている。そうしたなかで、1998年(平成10)3月、文部省厚生省は「幼稚園と保育所の施設の共用化等に関する指針」を示し、幼保施設の共用化を進めてきた。2006年(平成18)6月には「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律」(平成18年法律第77号)が成立し、幼稚園の教育と保育所の保育を一体的に提供する「認定こども園」の制度がスタートした。さらに、2012年の同法の一部改正により、幼稚園と保育所の双方の機能をあわせもつ第三の施設として、「幼保連携型認定こども園」が登場した(2015年4月施行)。「幼保連携型認定こども園」は、「義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとしての満3歳以上の子どもに対する教育並びに保育を必要とする子どもに対する保育を一体的に行」うもので(同法第2条第7項)、その教育・保育は幼稚園教諭免許状と保育士資格を併有する「保育教諭」が「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」によって行う。これにより、「幼保連携型認定こども園」には、待機児童の解消とともに、満3歳以上のすべての子どもに「学校としての教育」を実施することが期待されているが、それが幼保の一元化ではなく、幼稚園とも保育所とも異なる第三の施設として「学校としての教育」と「児童福祉としての保育」を一体的に行うものであるために、かえって幼児教育制度の複雑さと教育・保育概念の混乱をもたらしている。

 世界の幼児教育の動向に目を向ければ、幼稚園と保育所が二元化している国は少ない。日本では幼稚園が明治初期に中上流層の幼児教育施設として誕生し、その後、労働者層の幼児の保育施設として託児所(保育所)が成立するという歴史的経緯のなかで幼保の二元化が起こり、今日まで引き継がれている。しかし、1926年(大正15)の幼稚園令では保育所的機能を幼稚園に付与して、幼稚園への保育の一元化が企図されており、また、戦後改革期には幼保の年齢別一元化(4歳未満を保育所、4歳以上を幼稚園で保育する)と5歳児保育の義務制が目ざされていた。いずれも実現には至らなかったが、こうした幼児教育の歴史から今日の幼保一体化の動きをみるならば、それは目ざすべきゴールではなく、幼保一元化に向けての過渡的な取り組みと位置づけられよう。近年の規制緩和政策を背景とする幼保一体化の推進においては、自治体の財政負担の軽減や都市部における保育所入所待機児童の解消といった財政上の問題解決が優先される傾向にあり、幼児教育の質の向上や保育者の養成と待遇改善などの問題が後手に回っている。それらの問題をいかに解決し、幼保一元化への道筋をどのようにつけていくのか、「幼保連携型認定こども園」後のビジョンが問われている。

[湯川嘉津美 2018年9月19日]

『日本保育学会編『保育学講座2 保育を支えるしくみ――制度と行政』(2016・東京大学出版会)』

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