物狂(読み)ものぐるい

精選版 日本国語大辞典 「物狂」の意味・読み・例文・類語

もの‐ぐるい ‥ぐるひ【物狂】

〘名〙 (古くは「ものくるい」とも)
正気でなくなること。精神状態が乱れてしまうこと。また、その人。乱心。〔十巻本和名抄(934頃)〕
撰集抄(1250頃)五「そこはかとなきそぞろごとうち言ひて、物狂のごとし」
② 神がのりうつること。神がかること。また、その人。
平家(13C前)二「此物ぐるひはしりまはってひろひあつめ、すこしもたがへず一々にもとのぬしにぞくばりける」
③ 能・狂言で、子どもや夫・妻を失うなど、精神的打撃により一時的に興奮状態となって、歌舞・物まね芸を演じること。また、その人。放浪する場合が多い。能「隅田川」、狂言「枕物狂」などのシテ
風姿花伝(1400‐02頃)二「舞・白拍子、又は物ぐるひなどの女懸り、扇にてもあれ」

もの‐ぐるおし・い ‥ぐるほしい【物狂】

〘形口〙 ものぐるほし 〘形シク〙 (「もの」は接頭語) 気が変になりそうである。ものにとりつかれて正気を失っているようだ。ものぐるわしい。
蜻蛉(974頃)上「もりぬるるさわぎをするに、かくの給へるぞ、いとどものぐるをしき
徒然草(1331頃)序「心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」
ものぐるおし‐げ
〘形動〙
ものぐるおし‐さ
〘名〙

もの‐ぐるわし・い ‥ぐるはしい【物狂】

〘形口〙 ものぐるはし 〘形シク〙 =ものぐるおしい(物狂)
源氏(1001‐14頃)手習「惜しく悔しう悲しければ、つつみもあへず、物ぐるはしきまでけはひもきこえぬべければ」
ものぐるわし‐げ
〘形動〙
ものぐるわし‐さ
〘名〙

ぶっ‐きょう ‥キャウ【物狂】

〘名〙 (「ものぐるい」の音読)
① ものぐるおしいこと。常軌を逸していること。また、その人。
※米沢本沙石集(1283)九「不可思議の功能多く侍り、物狂(フッキャウ)の者も、あまたなをり侍り」
② (相手挙動を非難する時に用いる) あきれたこと。とんでもないこと。
※虎明本狂言・鈍太郎(室町末‐近世初)「なふ、そなたのなりは、ぶっきゃうや」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「物狂」の意味・読み・例文・類語

ぶっ‐きょう〔‐キヤウ〕【物狂】

《「ものぐるい」を音読みにした語》
心が乱れて正常な判断ができないこと。
「―の者もしるしありと聞きて」〈沙石集・一〇末〉
とんでもないこと。あきれたこと。
「なう、そなたのなりは―や」〈虎明狂・鈍太郎

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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