矢板(読み)ヤイタ(英語表記)sheet pile

デジタル大辞泉 「矢板」の意味・読み・例文・類語

や‐いた【矢板】

建築・土木の基礎工事で、土砂の崩壊や水の浸入を防ぐため、地盤に打ち込む板状のくい。木製・鋼製・鉄筋コンクリート製などがある。

やいた【矢板】[地名]

栃木県中北部の市。中世は塩谷氏の城下町電気機械工業・木工業や農業が行われる。人口3.5万(2010)。

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精選版 日本国語大辞典 「矢板」の意味・読み・例文・類語

や‐いた【矢板】

[1] 〘名〙 土木建築の基礎工事や坑道掘削などで土砂の崩壊や水の浸入を防ぐため土中に打ち込む板杭。互いにかみ合わせたり、食い込ませて連続して打ち込み壁面をつくる。木矢板鉄筋コンクリート矢板鋼矢板などがある。矢木。やばん。
※続・赤えんぴつ(1957)〈加藤康司〉校正心理学「鉄矢板の打ち込み、リベット騒音にまじって」
[2] 栃木県中北部の地名。那珂川の支流荒川の谷口集落米作・畜産農業および電機・木工工業が行なわれる。江戸時代は日光北街道の宿駅。昭和三三年(一九五八市制

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改訂新版 世界大百科事典 「矢板」の意味・わかりやすい解説

矢板 (やいた)
sheet pile

シートパイルともいう。土止めや水止めを目的として,施工前に地盤に打ち込まれる細長い板状の杭。幅方向に接続させて打ち込み,隙間のない壁面を構築する。トンネル工事では,鉄枠などの坑道支保材の外側と周囲の地山との間に打ち込み,地山からの土圧を均等に分布させ支保材に伝達するとともに,落石と崩壊を防止することを目的としている。また,軟弱な地山に坑道を掘削する場合には,掘削前方の地山の天井にあらかじめ矢板を打ち込んで崩落を防ぎながら掘り進む。この場合の矢板のことを差矢ともいう。地山に立坑を掘削する場合にも,あらかじめ立坑の周囲に板を打ち込んで地山の崩落を防ぎながら内側を掘り進んでいく。建物の基礎工事などで地山を掘削する場合も,側面土砂の崩落を防止し,また,地下水の流入を遮断するために矢板を地山に打ち込むが(矢板工という),その場合に使用される矢板は,基礎の根掘り工事では土止矢板,河川港湾工事では護岸矢板とも呼ばれる。このほか,盛土ののり(法)尻での土止めや遮水を目的としたダムなどの基礎コンクリートの下に打ち込む遮水壁にも使用されている。

 矢板の種類には,その材料によって木矢板,鉄筋コンクリート矢板,鋼矢板などがある。木矢板としては,マツやクリなどの生材が使用され,地山の硬さに応じて種々の厚さと長さのものが製作されている。鉄筋コンクリート矢板としては,ピアノ線を使用したPCコンクリート板が製作されており,3~6mの護岸や岸壁などの永久構造物として使用されている。鋼矢板は,圧延によりU型,Z型,H型および直線型などの特殊な断面形状に製作され,継手構造にも特殊なくふうが行われており,強大な側方土圧や水圧にも耐えられる強度を有している。また,硬い地盤への打込みが可能であるばかりでなく,引抜きも容易であり,仮設構造物として反復使用に耐えることができる。根掘り深さの大きい建築基礎構造物の建設にあたっては,遮水性のすぐれた鋼矢板が切梁とともに多く使用されており,また,水深5m以上の海洋工事においても岸壁構造物として地山に固定したタイロッドとともに多用されている。矢板の打込みには,ドロップハンマーディーゼルハンマー,振動杭打機などが使用されるが,最近は打込み時の振動と騒音を防止するため油圧式の矢板貫入機械も開発されている。
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矢板[市] (やいた)

栃木県北東部の市。1958年市制。人口3万5343(2010)。北西部は高原山などの山地であるが,東部や南部は那珂川の支流箒(ほうき)川と内川,鬼怒川の支流荒川の沖積低地である。中世における中心集落は南部の川崎反町(かわさきそりまち)と館ノ川で,塩谷氏が居城した。現在の中心集落矢板は,近世には日光北街道の宿駅であったが,間の宿であったため明治初年でも戸数60余にすぎなかった。1886年の東北本線の開通とともに矢板駅が開設されたことから,県北の産業・交通の中心地として急激に発展した。稲作,畜産,施設園芸が行われ,長井ではリンゴ栽培が盛んである。近世以来の伝統をもつ製材業,第2次大戦中の工場疎開に始まる通信機製造のほか,昭和40年代以降,国道4号線バイパスの開通,東北自動車道矢板インターチェンジ開設など交通事情の改善によって工業団地が造成され,家電,自動車部品などの大工場が誘致されている。北部は日光国立公園に属する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「矢板」の意味・わかりやすい解説

矢板
やいた
sheet pile

土木建築材料の一種。通常、連続して壁状に地盤中に打ち込み、横方向の外力に抵抗させて土止め壁または止水壁として用いる。土止め工、仮締切り工、築島、仮護岸などの仮設工事をはじめ、岸壁、護岸、防波堤、遮水壁、ドック渠壁(きょへき)、橋梁(きょうりょう)基礎など広範囲な用途に使用される。材料により、木矢板、コンクリート矢板、および鋼製矢板に大別される。

 木矢板は小規模な簡易土止めに用いられるが、一般に耐久性が乏しく、断面の大きなものが入手しにくいことなどから、現在では鋼製矢板にとってかわられている。

 コンクリート矢板は重量が大きく取扱いが不便である反面、腐食に対して有利であり、浅い水路側溝や簡単な永久土止め壁として用いられることが多い。コンクリート矢板としては鉄筋コンクリート矢板(RC矢板)、プレストレストコンクリート矢板(PC矢板)、加圧コンクリート矢板などがある。

 鋼製矢板には鋼矢板(シートパイル)、軽量鋼矢板(トレンチシート)、および鋼管矢板がある。鋼矢板としてはU形、Z形、H形、直線形など種々のものがあり、断面性能についても多くの種類があり、使用目的や条件に応じて任意に選択できるので、もっとも広く使用されている。軽量鋼矢板は普通の鋼矢板ほどに強度や止水性を必要としない小規模工事の浅い土止めなどに用いられる。また、鋼管矢板は断面強度がもっとも大きく、大規模な土止め、仮締切り工や護岸、基礎工などの永久構造物、あるいは仮設と本構造物の兼用で用いられる場合などに使用例が多い。

[河野 彰・清水 仁・鴫谷 孝]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「矢板」の意味・わかりやすい解説

矢板
やいた
sheet pile

板状の杭で,シートパイルともいう。本来は鉱山や炭鉱で坑道支保の枠の外側に岩や土砂のくずれ落ちるのを防ぎ,土圧を均等に枠に伝えるためはさんでおく板,もしくは,掘り進む場合落石や土砂のくずれ込みを防ぐためあらかじめ打込んでおく板のこと。土木建築工事には,土止め締切りなどの仮設工事,岸壁や護岸工事の永久構造物として用いられる。材料によって木矢板,鋼矢板,鉄筋コンクリート矢板,プレストレストコンクリート矢板,加工コンクリート矢板などがある。

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百科事典マイペディア 「矢板」の意味・わかりやすい解説

矢板【やいた】

シートパイルとも。土砂の崩れを防ぐ等のため打ち込む板状の杭(くい)。両縁の凹凸を組み合わせて接続し,土留め,止水を目的として岸壁工事,橋の脚柱基礎工事などに使用される。材料により木矢板,鋼矢板,鉄筋コンクリート矢板などがある。
→関連項目土止め

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世界大百科事典(旧版)内の矢板の言及

【建築施工】より

…そのような状態を山がくるといい,これを防止するための工事を山止め工事という。もっとも一般的な山止め工法は山止め壁(矢板)に負荷される土圧を水平切りばりで支持する水平切りばり工法である。このほかにも種々の工法があるが,いずれにしても山止め工事は不確実な要素の多い危険な工事であり,荷重や部材の変形状態をつねに測定しておき異常の早期発見に努めなければならない。…

【差矢法】より

…鉱山や建設現場で用いられる坑道支保技術の一つ。脆弱(ぜいじやく)で崩れやすい地盤を掘削する場合に,支保枠を施した安全な区域から,これから掘削する部分の地盤へ矢板または矢木(板状または柱状で先端をとがらせた坑木。鋼製のものもある)を打ち込んでおいて,その中を掘り進む。…

※「矢板」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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