河岸や河川の堤防が流れによって崩壊するのを防いだり,あるいは海岸において波浪や高潮,津波によって地盤や堤防が浸食されるのを防ぐため,地盤の表面や堤防の法面(のりめん)を覆って保護する構造物。河岸や海岸にあたる流れや波浪などの勢いを減殺するため,護岸の基礎の前面に水制を設けたり,コンクリートブロックや捨石を置き,これらの施設と一体となって護岸としての機能をもたせることもある。この場合,河川では護岸水制と呼び,海岸の場合は,波のエネルギーを減殺する目的で護岸の前面に置かれたコンクリートブロックや捨石を消波工と呼ぶ。なお,漁港などで物揚場や係船のための岸壁を護岸として作る場合もある。
河川堤防の護岸には,常時,河川の水が流れる低水路の流れを安定させるとともに,高水敷の洗掘を防ぐために低水路の河岸に設ける低水護岸がある。さらに洪水時の堤防保護を目的とした高水護岸,および低水路から堤防の高水位の高さまで堤防全面を直接保護する堤防護岸の3種類がある。
護岸の基本的構成は,法覆工(のりふつこう),法止め工,根固め工の3種類から成り立っている。法覆工は堤防あるいは河岸,海岸の地盤の法面を被覆して保護するもので,古くからの工法として,芝を張り付ける芝付け,粗朶(そだ)で柵(しがらみ)を組み,その中に砂利などを詰めて敷設する柵工などがあるが,最近では強度や耐久性,施工性などの観点から,石張り,石積み,コンクリートブロック張り,コンクリート現場打ちなどの工法が多く用いられている。また災害後の応急復旧や重要でない個所には,鉄線で編んだ籠の中に玉石などを詰めて法面に敷設する蛇籠張りや小さなコンクリートブロックを鉄筋で連結して可撓性(かとうせい)を与えたもので法面を覆う連結コンクリート張りが用いられることもある。法止め工は,堤防あるいは河岸,海岸の脚部を保護するとともに,法覆工の基礎となるもので,杭をすきまなく並べて打ち込んだり,杭の間に木製の矢板を打ち込んだりしていたが,最近では法覆工に石積みやコンクリートブロック張りが増加したこともあって,コンクリート杭や鋼製矢板の杭頭に法覆工の基礎となるコンクリート土台を作って法止めの役割をさせたものが多い。
また堤防がなく原地盤に直接護岸を施工する場合,鋼矢板を直接打ち込んで護岸本体として利用することも多くなっている。根固め工は,法止め工の前面に設置される工作物で,河床や海底の洗掘,低下に対し堤防や護岸の法先を保護する。河川の堤防や河岸では,木の枝を網状に編み石を重しとして沈める粗朶沈床,同様に木で枠を組んだ木工沈床,牛類(うしるい)や捨石などが用いられていたが,最近ではコンクリートブロックを利用することが多くなっている。海岸堤防や高潮護岸では,高潮時の波浪のエネルギーを減殺する目的で,各種の形をした異形ブロックが消波工として護岸の前面に並べられている。
なお,海岸堤防や高潮護岸は,用地の関係などで法面のこう配を急斜面とすることがあるが,護岸にあたる波浪のエネルギーが大きいので,護岸として現場打ちコンクリートを用いたり,高潮護岸をコンクリート擁壁状に作ることが多い。また波が越えるのを防止し,波しぶきが陸地に飛散するのを防ぐため,法覆工の部分を堤防の天端(てんば)よりさらに1mほど上方に延ばす波返し工を設けるのがふつうである。
執筆者:中沢 弌仁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
河岸または海岸の現地盤をコンクリート、アスファルト、石材などで被覆して侵食から守り、河水、海水などが陸側へ浸入するのを防ぐ施設。河川では広い意味に用いるとき、岸から川の中へ突き出す水制という工作物をも護岸に含めることもあるが、一般的には河岸もしくは堤防を保護する施設をいう。
河川護岸は法覆(のりふく)工、法留(のりどめ)工、根固(ねがた)め工の3部分からなる。法覆工は、流勢に応じて芝、蛇籠(じゃかご)、石、コンクリート、アスファルトなどによって法面を保護し、法留工は、杭(くい)、土台木、矢板などによって斜面の滑り出しを防ぎ、根固め工は、沈床(ちんしょう)、捨石(すていし)、蛇籠、枠工、コンクリート異形ブロックなどを用いる。
海岸護岸では越波を防ぐため、波返しまたは胸壁をつけることが多く、法面の被覆もほとんどの場合コンクリートである。波による護岸基部の洗掘に対しては、捨石、消波ブロックなどを用いて根固め工を施す必要がある。護岸施設は古来から各地で用いられており、昔からの経験を生かした種々の工法がある。
[堀口孝男]
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