浮標式(読み)ふひょうしき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮標式」の意味・わかりやすい解説

浮標式
ふひょうしき

航路において、浮標立標が設置されている理由を、昼間は塗色、形状、頭標によって、夜間は灯色と光の出し方によって、標示する意味を定めた方式。

[川本文彦]

歴史

1828年、イギリスのロバート・スティーブンソンが、「右舷(うげん)側を赤色、左舷側を黒色」とすることを提案したのに始まる。1882年にはイギリスで右舷を赤色円錐(えんすい)形、左舷を黒色円筒形に統一することが決められた。しかし、国際航海が盛んになるにつれて、一国の国内だけでなく、国際的統一が必要となった。

 1889年、ワシントンで開かれた国際海事会議以来、何度も統一への努力が行われたが実現せず、1937年、ジュネーブにおける国際連盟交通部会で「海上標識の統一に関する協約」ができたが、これも第二次世界大戦の勃発(ぼっぱつ)などのため批准国が少なく、発効しなかった。戦後の1957年、国際航路標識協会(IALA)が設立され、「浮標式の統一に関する技術委員会」が設置された。

 たまたま、1971年、ドーバー海峡タンカーテキサス・アビリアン号が沈没し、沈船警告灯が設置されたが、その意味がわからないまま、数時間後に貨物船ブランデンブルグ号が衝突沈没、さらに数週間後に貨物船ニキ号が沈船に衝突沈没するという事故が起こった。これらの海難事故により、当時全世界で30種以上もあった浮標式の国際的統一の必要性が改めて認識された。その結果、1980年(昭和55)東京におけるIALA総会で「IALA海上浮標式」の採択が合意され、百数十年来の懸案であった海上浮標式の国際的統一が実現した。

[川本文彦]

標識の種別と意味

〔1〕側面標識 可航水路の側端を示す標識で、次の四つがある。(1)左舷標識(標識の位置が航路の左側の端で、その右側に可航水域があること、または標識の左側に暗礁浅瀬、沈船などの障害物があることを示す)、(2)右舷標識((1)と左右反対)、(3)左航路優先標識、(4)右航路優先標識。(3)(4)は航路の分岐点に用いられ、(3)は標識の左側、(4)は標識の右側に優先航路があることを示す。

 側面標識の左舷、右舷、または左、右は、水源に向かって進む船を基準とする。水源は、港・湾・河川およびこれらの接続水域では港・湾の奥、河川の上流となる。その他海域では陸地を中心とした時計回りの方向が原則なので、日本列島全体については与那国(よなぐに)島(南西諸島)が水源となる。なお瀬戸内海では神戸港を水源としている(宇高航路では宇野港とされていた)。

〔2〕方位標識 その標識に付された名称の側(がわ)を通航すべきことを示す標識で、次の四つがある。(1)北方位標識(標識の北側に可航水域または航路があり、南側に暗礁、浅瀬、沈船などの障害物があること。標識の北側に航路の入口、屈曲部、分岐点または合流点があることなどを示す)、(2)東方位標識、(3)南方位標識、(4)西方位標識。

〔3〕孤立障害標識 標識の付近に暗礁、浅瀬、沈船などの孤立した障害物があることを示す標識。

〔4〕安全水域標識 標識の周囲に可航水域があること、または、標識の位置が航路の中央であることを示す標識。

〔5〕特殊標識 標識の位置が工事区域、土砂捨て場などの特別な区域の境界であること、または、標識の位置に特別な施設があることを示す標識。

 浮標式が「IALA海上浮標式」に統一されたとはいえ、歴史的、現実的事情により完全統一に至らず、側面標識についてはA地域(左舷―赤、右舷―緑)とB地域(左舷―緑、右舷―赤)の2地域がある。日本は南北アメリカ大陸の各国と、韓国、フィリピンとともにB地域、その他の諸国はA地域に属する。

[川本文彦]


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