アイトマートフ(読み)あいとまーとふ(その他表記)Чингиз Айтматов/Chingiz Aytmatov

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイトマートフ」の意味・わかりやすい解説

アイトマートフ
あいとまーとふ
Чингиз Айтматов/Chingiz Aytmatov
(1928―2008)

キルギス共和国作家キルギズ語ロシア語執筆。1952年、農業大学在学中に処女短編『新聞配達少年ジュイド』を新聞に載せ、1953年同校卒業後、畜産技師として働きながら、作品を発表する。農村因習に抗して愛と幸福を求める若いキルギス女性を描いた『ジャミリャ』(1958。邦訳『絵の中の二人』)は、仏訳者の詩人ルイ・アラゴンに激賞され、レーニン賞を受けた。『赤い三角帽子をかぶったトポレク』(1961)、『最初の教師』(1962)、『さらば、グリサルイ!』(1966)、『早春の鶴(つる)』(1975)などで、後れた中央アジアに芽生える新しい人間関係を民族色豊かに描いている。1972年にウズベキスタンの劇作家カルタイ・ムハメジャーノフКалтай Мухамеджанов/Kaltay Muhamedzhanov(1928―2001)と共作した戯曲『フジヤマ登山』や、中編『白い汽船』(1970)、『海際を走る斑犬(まだらいぬ)』(1977)、『一世紀より長い一日』(1980)、『処刑台』(1986)、『カッサンドラ烙印(らくいん)』(1994)は、壮大な神話的・哲学的世界をつくりだしている。1988~1990年、『外国文学』誌の編集長を務める。ペレストロイカ時代にゴルバチョフの大統領会議のメンバーになり、1990年末から1994年まで駐ルクセンブルク・ソ連(のちにロシア大使になる。

[中本信幸 2016年1月19日]

『アイトマートフ著、小笠原豊樹訳「絵の中の二人」(1965・伊藤整ほか編『世界文学全集第30 20世紀の文学』所収・集英社)』『小野理子訳『さらば、グリサルイ!』(1970・理想社)』『岡林茱萸訳『白い汽船』(1984・理論社)』『飯田規和訳『一世紀より長い一日』(1984・講談社)』『佐藤祥子訳『処刑台』(1988・群像社)』『赤沼弘訳『最初の教師・母なる大地』(1990・第三文明社)』『飯田規和訳『チンギス・ハンの白い雲』(1991・潮出版社)』『飯田規和訳『カッサンドラの烙印――二十世紀の異端の書』(1996・潮出版社)』『浅見昇吾訳『この星でいちばん美しい愛の物語』(1999・花風社)』『阿部昇吉訳『いとしのタパリョーク』(2000・鳳書房)』『浅見昇吾訳『涙が星に変わるとき』(2002・花風社)』『アイトマートフ、池田大作著『大いなる魂の詩』上下(1992・読売新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「アイトマートフ」の意味・わかりやすい解説

アイトマートフ
Chingiz Aitmatov
生没年:1928-2008

キルギス共和国の小説家。1953年に農業専門学校を卒業し,畜産技師となるが,ほぼ同時にロシア語とキルギス語で中・短編やルポルタージュを発表し,本格的な作家活動を始める。初期の代表的作品としては《アシム》(1953),《われら,さらに前進す》(1957),《ライバル》(1958)などがあるが,なかでも中編《ジャミーリャ》(1958)は広く国外でも絶賛され,彼の文名を高めた。農村の古い因習に抗して愛を貫く女性を描いたこの作品によってレーニン文学賞を受けた。また,中央アジアのソ連宇宙ロケット発射基地の周辺を舞台とした長編《世紀よりも長くつづく一日》(1980)は民族問題を扱い,新境地を示す問題作として注目を集めた。
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百科事典マイペディア 「アイトマートフ」の意味・わかりやすい解説

アイトマートフ

キルギス共和国の小説家。《アシム》(1953年),《われら,さらに前進す》(1957年),《ライバル》(1958年),レーニン文学賞を受賞した《ジャミーリャ》(1958年),民族問題を扱った《世紀よりも長くつづく一日》(1980年)などの作品がある。

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世界大百科事典(旧版)内のアイトマートフの言及

【トルコ文学】より

… キルギス文学では,マナスという長大な民衆英雄叙事詩が,吟遊詩人によって口承されてきた。チンギズ・アイトマートフは,この豊かな口承文学の伝統を文体に取り入れながら,ソビエト社会における種々の社会問題をテーマとした小説を発表している。カザフ文学では,ロシア帝国時代から,カザフ知識人によってカザフ文語が形成され,ロシア文学の影響を受けた文学活動が続けられた。…

※「アイトマートフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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