翻訳|Aida
ベルディのオペラ。4幕。スエズ運河の開通を記念してカイロに歌劇場を建設したエジプトの大守(パシャ)イスマイリの依頼により作曲。1871年、同劇場で初演。ドラマは、エジプトの若き将軍ラダメスと、とらわれの身にある敵国エチオピアの王女アイーダとの悲恋の物語。古代エジプトを舞台に繰り広げられる異国情緒豊かな祭儀や舞踊、そして大群衆が登場する「凱旋(がいせん)の場」など豪華絢爛(けんらん)たる場面が数多く、グランド・オペラの代表作とされている。また一方、ラダメスに思いを寄せるエジプト王女アムネリスとの三角関係が織りなす愛情と嫉妬(しっと)、希望と失意など、時代や地域を超えた人間の基本的感情を浮き彫りにしていることも、この作品の特徴である。明快な筋書き(台本ギスランツォーニ)に助けられ、「凱旋の場」における合唱のスペクタクルな効果から、ラダメスへの愛と祖国への愛の相克に悩むアイーダの心理描写(「勝ちて帰れ」)に至るまで、ベルディは、ドラマのさまざまな要素をみごとに音楽で描き分け、壮麗かつ精妙なオペラをつくりあげた。なお、作品の成立動機、その祝典的な性格から、『アイーダ』は音楽祭の出し物、オペラ・シーズン幕開きの演目として上演されることが多い。日本では1919年(大正8)ロシア歌劇団により初演。1941年(昭和16)藤原歌劇団により日本人による初演。そして1982年(昭和57)には二期会創立30周年記念公演として上演されている。
[三宅幸夫]
ベルディ作曲の4幕7場のグランドオペラ。スエズ運河開通(1869)記念に建てられたカイロの大歌劇場の開場式のために,エジプト太守が依頼したもので,初演は1871年カイロ。イタリア初演は72年,日本初演は1919年9月ロシア歌劇団による。日本人による初演は41年5月。台本はエジプト学者E.マリエットがメンフィスでの神殿発掘の体験による原案を基にA.ギズランツォーニが作成。ベルディの過去23作品の集大成ともいえる円熟期の頂点を築いた作品。ワーグナーの影響を受け始めた時代に作られていながら,旋律と歌唱中心のイタリア・オペラの特徴や,番号制オペラの形式も幾分残した自由な形で作曲,管弦楽法の充実とあいまって劇的効果,情景,感情の表出を重視して音楽的無駄を省き,旋律的美しさ,管弦楽の多彩さ,ダイナミックな合唱の迫力,視覚的楽しみを兼ね備えた音楽によってドラマを表現した。古代エジプトを舞台とした異国趣味を背景に,恋と祖国愛に悩むエチオピアの王女アイーダとエジプトの将軍ラダメスをめぐる悲劇で,スペクタクルな凱旋の場面や華やかなバレエも織りこみ,終幕の上下に分かれた二重舞台も劇的効果を高めており,劇場の祭典的催しなどに好んで上演される。ラダメスの歌う〈清きアイーダ〉,アイーダの〈勝って帰れ〉〈ああ,わがふるさと〉は,〈凱旋行進曲〉やバレエ曲とともに広く親しまれている。
執筆者:武石 英夫
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…ユゴーの《東方詩集Orientales》(1829),ラマルティーヌの《東方紀行》(1835)などがロマン主義文学者による代表例である。音楽では,モーツァルトの《後宮よりの誘拐》(1782)のトルコ趣味が早い例で,後にはベルディの《アイーダ》(1871初演)のような,エジプト風俗に関してかなり歴史的考証を経たものも見られる。美術の分野では,ロマン主義の代表者ドラクロアの《アルジェの女たち》(1834),《ミソロンギの廃墟に立つギリシア》(1826)などが東方への熱い思いを伝えるが,アングルのような新古典主義の画家による《グランド・オダリスク》(1814)など,ロマン主義に限らず幅広い層の関心をあつめた。…
※「アイーダ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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