イギリスの生態学者。J・ハクスリーのもとで動物学を学び、初期にはイギリス、スバールバル諸島、カナダなどで、個体群の周期変動と動物群集の調査に従事。26歳の著『動物の生態学』(1927)は、食物連鎖・生態的地位・個体群動態を基本に、生態学に現代史を開いた名著とされる。1932年『動物生態学雑誌』を創刊。また同年オックスフォード大学に動物個体群研究所を設立し、1968年まで所長を務めた。その後、哺乳(ほにゅう)類の個体群動態論を進め、『ノネズミ・ハタネズミ・レミング』(1942)を完成。また1943年には、生態学の長期継続研究のため、オックスフォード近郊のワイタムの森を入手し、世界中の研究者を招いて、さまざまな動植物個体群や群集調査の拠点とした。また自らは、個体群と生息場所の散在を軸に群集の様式論を深化させ、とくにエッセイ『個体群の相互的散在』(1949)と大著『動物群集の様式』(1966)は、その後の生態学全体の進展に大きく寄与した。なお、外来種に対する群集の抵抗性を軸に、自然保護を多様性の観点から論じた『侵略の生態学』(1958)もある。なお夫人は、自然詠詩人として知られる。
[川那部浩哉]
『渋谷寿夫訳『動物の生態学』(1955・科学新興社)』▽『川那部浩哉他訳『侵略の生態学』(1971・思索社)』▽『川那部浩哉他訳『動物の生態』(1978/新装版・1989・思索社)』▽『遠藤彰・江崎保男訳、川那部浩哉監訳『動物群集の様式』(1990・思索社)』
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イギリスの生態学者。英文学者Oliver Elton(1861-1945)の子。オックスフォード大学博士課程を中退して北極地方探検に加わり,この経験をもとにホッキョクギツネやタビネズミ(レミング)の個体数変動を研究した。27歳で《動物生態学Animal Ecology》(1927)を,33歳で《動物の生態Ecology of Animals》(1933)を発表し,野外における動物個体群研究の基礎を築き,〈生態的地位〉など群集生態学にとって重要な提言を行った。オックスフォード大学動物個体群研究所長(1932-68)として個体群生態学の発展に寄与したが,第2次世界大戦後は生物群集の記載法,群集内での種間関係なども研究した。上記2著のほか《侵略の生態学Ecology of Invasions by Animals and Plants》(1958)も著名。
執筆者:伊藤 嘉昭
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…生物群集において,A種がB種に食われ,B種はC種に,C種はD種に食われるという,食う食われるの関係があるとき,A,B,C,Dは食物連鎖をなすといい,A→B→C→Dと表す。この語は,1927年にイギリスの動物生態学者C.S.エルトンが提唱した。彼は動物群集を解析するにあたって食物関係を重視したのであるが,これは生物群集の重要な基本構造であると現在でも考えられている。…
… 20世紀前半は比較的沈滞した時代であったが,その中で20世紀後半の隆盛を準備する概念が徐々に形成されていった。群集についてはもっぱら植物群落の分類と遷移の研究が行われていたが,C.S.エルトンは動物群集内の相互関係を食物関係を中心に分析し,食物連鎖,食物網,基幹産業動物,生態的地位,個体数ピラミッドといった概念を用いて,群集の構造と機能とでもいえるものをみごとに具体化してみせた(1927)。その影響は大きかったが,直接の効果はただちには生じなかった。…
…C.ダーウィンはこの観念を受けて,《種の起原》(1859)で自然淘汰を論じた際に,〈the place in the economy of nature〉という表現をなん度も使ってこの考えを明らかに述べている(ここでeconomyとは経済ではなく,自然の理法,自然の秩序を意味する)。このダーウィンの考えを受け継いで生態的地位ということばを導入し定義したのはC.S.エルトンであった(1927)。しかし,それに先立ってカリフォルニアのグリネルJoseph Grinnell(1877‐1939)が同じことばをエルトンとはやや異なった意味に使っていた(1914。…
…こうした関係を図にして栄養段階の低いもの(食われる方)から高いもの(食う方)へと順次積み上げるとピラミッド型となる。これは,イギリスの生態学者C.S.エルトンが1927年に個体数に着目して提案したので,〈個体数のピラミッド〉または〈エルトンのピラミッド〉と呼ばれている。個体数のピラミッドでは,樹木とその葉や材を食う多数の昆虫の関係(生食連鎖)や,寄生虫と宿主の関係(寄生連鎖)などの場合では倒立する。…
…生物どうしの働きあいを重視した真の〈生態学〉の開祖は,進化を生物の生存競争の観点から見たダーウィンであった。20世紀にはいり,植物については遷移(1916)と極相の理論を提唱したF.E.クレメンツ,また動物ではC.S.エルトンの《動物生態学》(1927)によって学問の輪郭が定まった。ただしこれらは,動植物どちらも個体数の増減を基本としたものであった。…
…ちなみに芸術作品には,もっと古い時期から食物連鎖をあらわしたものがあって,例えば《ガリバー旅行記》の著者のスウィフトには〈ノミの体にゃ血を吸う小さいノミ,小さいノミにはその血を吸う細っかいノミ,こうして無限に続いてる〉という詩があるし,16世紀フランドルの画家大ブリューゲルの作《大きい魚は小さい魚を食う》は,つとに有名である。 食物連鎖の関係を一つの突破口として群集の研究を進めようとしたのは,イギリスのC.S.エルトンであった。彼は〈動物を駆り立てている推進力は,正しい種類の食物をしかも十分に見いだすことなのだ〉として,食う食われるの関係にある個体どうしを比較すると,その間の相対的大きさが一定の範囲におさまってしまうこと,食物連鎖の段階が進むにつれて一般に個体数が減少する(数のピラミッド)関係のあることなどを指摘した。…
※「エルトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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