アカテガニ
Chiromantes haematocheir,(=Sesarma haematocheir, Holometopus haematocheir)
河口付近にすむ甲殻綱イワガニ科のカニ。甲幅3.5cm。甲はやや横長の四角形で,両側縁が弱く弧を描く。甲の前方部分は黄色ないし黄褐色,他は暗緑褐色,はさみ脚が紅赤色のものが多いのでこの名があるが,若い個体では一様に黄褐色である。海岸や河口近くの土手や湿地に多いが,海水の影響のない上流にまですんでいる。一般に直径2~3cm,深さ30~50cmの穴を掘るが,あまり定住性が高くない。地中温度13~15℃以上の時期,本州中部では4月下旬から11月上旬に活動する。交尾,産卵,抱卵,放卵は夏で,抱卵数は甲幅2cmの雌で約1万5000粒,3cmの雌で約5万5000粒である。約1ヵ月抱卵した後,雌は満月か新月の日没と満潮が重なる時刻に半ば海水につかって腹部を激しく開閉させる。泳ぎ出したゾエア幼生は約1ヵ月の浮遊生活の後にメガロパ幼生を経て稚ガニに変態して河口にもどってくる。東北地方から沖縄,韓国,中国北部,台湾に分布する。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アカテガニ
あかてがに / 赤手蟹
[学] Sesarma (Holometopus) haematocheir
節足動物門甲殻綱十脚(じっきゃく)目イワガニ科に属するカニ。日本の東北地方から沖縄、朝鮮半島、中国北部、台湾に分布する極東地域の固有種。甲幅4センチメートルほどの四角形で、側縁には切れ込みがない。背甲は暗青緑色で、額(がく)や前側縁が黄色ないし黄褐色、はさみが紅赤色。若い個体では一様に黄褐色。海岸や河口近くの土手や湿地に多いが、海水の影響がない上流域でもみられる。4月下旬から11月上旬まで活動するが、繁殖期は夏である。抱卵数は、甲幅2センチメートルの雌で約1万5000粒、3センチメートルの雌で約5万5000粒に上る。約1か月間抱卵したのち、満月か新月の夜、満潮の時刻になかば海水につかって腹部を激しく開閉してゾエア幼生を孵化(ふか)させる。このような劇的な習性は主として太平洋側でみられるものであって、干満の差がほとんどない日本海側では潮汐差による明瞭(めいりょう)な生活行動はみられない。
[武田正倫]
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アカテガニ
Chiromantes haematocheir
軟甲綱十脚目ベンケイガニ科。甲幅 4cm,甲は側縁がわずかにはり出した四角形で,側縁に切れ込みがない。色彩は一般に暗青緑色で,額部や前側縁が黄褐色であるが,ときに甲面全体が赤みを帯びていることもある。若い個体は黄褐色。鋏が濃い紅赤色であることが和名の由来。岩手県以南の沿岸域で普通に見られ,台湾,中国北部まで分布する。河口付近の湿地帯に多いが,流域に沿って海水の影響がほとんどない上流域まで生息する。(→甲殻類,十脚類,節足動物,軟甲類)
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世界大百科事典(旧版)内のアカテガニの言及
【月周リズム】より
… 月周リズムは海産の生物に限らず陸生の動物にも見られる。海岸から多少はなれた山間部に生息するアカテガニは満月と新月のころに海岸や近くの川に下りてきて幼生を放出するため,幼生はすみやかに海に到達することができる。このカニの半月周リズムも内因性で,人工月光により同調されることが証明されている。…
※「アカテガニ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」