改訂新版 世界大百科事典 「アガマ」の意味・わかりやすい解説
アガマ
agama
アガマ科Agamidaeに属するトカゲ類の総称で,エリマキトカゲなど約53属300種に及ぶ大きな一群。ヨーロッパ南西部から南アジア,アフリカ,オセアニアに広く分布し,日本にはキノボリトカゲJapalura polygonata1種のみ南西諸島に分布する。アガマ類は原始的なイグアナ類から分化したものと考えられ,両者には形態,生態ともに類似点が多い。
大半が樹上性でがっちりした体形をしており,頭部はむしろ大きめで,発達した四肢と長い尾をもつ。とくに樹上性の種類は尾が長く体のバランスをとるのに役だつが,尾は原則として自切や再生をしない。多くの種類には頸部から尾にかけての背中線上に櫛(くし)の歯状の飾りうろこがあり,大きな襟飾やのど飾をもつものもある。ほとんどが全長30cm前後の中くらいの大きさ。しかし,マレー諸島,フィリピンに分布するフィリピンホカケトカゲHydrosaurus pustulatus,アンボイナホカケトカゲH.amboinensisは全長1m余りの大型で,雄には背中から尾にかけて帆のような大きなひれ飾がある。これはディスプレーのとき体をりっぱに見せる効果があるらしい。水辺の樹上にすみ,脅されるとすぐ水にとびこむ。小型種は,ボルガ下流域からパキスタン,アラビア半島にかけて40種ほどが知られるスナジアガマ類Phrynocephalusで,全長10cmほどの小さい種もあり,荒地や砂漠の砂地にすむ。アガマ類のほとんどが昆虫,クモ類などを餌とする肉食性であるが,雑食性や草食性のものもある。スナジアガマ類とオマキアガマ類Cophotisが卵胎生で,他はすべて卵生。アガマ類の典型的なタイプで,北サハラを除くアフリカ全域に広く分布するレインボーアガマAgama agamaに見られるように,アガマ類は環境条件の変化や,縄張内におけるライバルの雄に対する脅しのディスプレーや,雌への求愛行動に応じて,体色を変化させ,のど飾を広げたりする。
あらゆる環境に適応放散した結果,変り種も多く出現し,例えばオーストラリア中央部の砂漠にすむ全長30cmのモロクトカゲMoloch horridusは,皮膚のしわを伝わる夜露を毛管現象で口に集めて水分を摂取している。全身が鋭いとげに覆われ“悪魔トカゲ”と呼ばれるが,きわめておとなしくもっぱら大量のアリを餌としている。中央アジアの砂漠にすむスナジアガマの1種アナホリアガマP.mystaceus(全長20cm)は,脅されると口を開いてシューッと音を立てて威嚇するが,そのとき口の両側にある特殊なひだによって口が2倍にも大きく見え,脅しの効果が高まる。穴掘りの名手ですぐに砂に潜ってしまう。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報