日本大百科全書(ニッポニカ) 「アシエンダ」の意味・わかりやすい解説
アシエンダ
あしえんだ
hacienda
ラテンアメリカのスペイン系諸国における伝統的大農場。ラテンアメリカの低開発、とりわけ農業の停滞要因としてあげられる大土地所有制(ラティフンディオ)を、プランテーション(輸出用商品作物を栽培する近代的大規模農業経営)とともに構成している。その特徴は、不在地主、商品生産と自給生産の並存、資本や技術の不足、膨大な未耕地の存在、家父長的な地主と小作の関係などにある。その形成は17世紀にさかのぼる。当初もっぱら鉱業に向けられていたスペイン人入植者の経済的関心が、食糧供給者としての原住民共同体の衰退とともにしだいに農業に向けられた。そしてスペイン不況による大西洋貿易の衰退に伴い、資本移動や土地保有の公認などの条件に恵まれて、新たに巨大で複合的な(農牧、農工など)生産組織が形成された。そのおもな変化は、鉱業経済から農業経済への推移とともに労働力の雇用形態にある。すなわち、当初エンコミエンダ制(原住民のキリスト教化を名目に、スペイン国王が植民者に征服地の住民の統治を委託する制度)によって徴募されていた原住民賦役労働力が、原住民人口の激減に伴って維持困難となり、農場主が直接に原住民を雇用し、農場内に定住させる形態(ペオン)をとるようになった。その結果、いっそう原住民共同体の解体が進んだ。またアシエンダは、その発達に伴って前記のペオンとは別の臨時労働力源として、周辺にミニフンディオ(零細経営地)を小作関係などを通じて増殖し、今日のラティフンディオとミニフンディオの二極構造を形成した。
[原田金一郎]