改訂新版 世界大百科事典 「アシナシイモリ」の意味・わかりやすい解説
アシナシイモリ
caecilian
形態が太いミミズそっくりの原始的な両生類で,アシナシイモリ目Gymnophionaの総称。6科約163種が世界の熱帯地方に広く分布し,無足類の別名がある。アシナシイモリ類は円筒形で細長く,まったく四肢を欠き腰帯の痕跡すらなく,左肺が退化して右肺のみ発達している。大半の種類には尾がなく,あってもきわめて短い。胴には皮膚のひだでできた多くの環節があり,さらに環節の間にもしわがあって,まさにミミズ状といえる。皮膚は滑らかで,より原始的なグループでは皮膚内に角質の細鱗が埋もれており,石炭紀に栄えた両生類のなごりと考えられる。眼は退化して小さく成体では上顎骨に隠れてしまい,まぶたもない。眼と鼻の中間に伸縮自在の小さな触手があって,これを動かしてミミズ,シロアリなどの餌を求める。頭骨は小さくまとまって硬く,穴を掘るのにつごうよくできている。雄には特殊な交接器がある。体内受精を行い,卵生と卵胎生とがある。幼生には発達した外鰓(がいさい)を生ずるが,成体では肺を生じ,鰓(えら)も鰓孔もない。大半は全長24~30cmほど。
(1)ヌメアシナシイモリ科Ichthyophiidaeにはセイロンアシナシイモリなど37種が含まれる。熱帯アジアに分布し,短い尾をもつ。成体は陸の湿地にすみ,春に雌は流れ近くの湿地の地中に穴をつくり,20個ほどの大きな卵を産み,体を卵塊に巻きつけて守る。幼生には大きな外鰓を生ずるがやがて消失し,穴の中で変態を終えるまで長い水中生活を送る。(2)ナンベイヌメアシナシイモリ科Rhinatrematidaeは最も原始的なグループで,南アメリカ北部に9種がすむ。産みつけられた卵にはすでに幼生が発育し,外鰓も生じている。(3)ミズアシナシイモリ科Typhlonectidaeは19種が南アメリカに分布し,尾も皮膚内の細鱗もない。水中生活に適したグループで河川にすみ,泳ぐこともできて,岩の多い流れで漁師の網にかかることもある。卵胎生で,幼生は雌の卵管壁にある房状の腺から分泌される乳液によって育つ。(4)アシナシイモリ科Caeciliidaeは約89種がアジア,アフリカ,南アメリカに広く分布している。成体は陸生で,パイナップル畑などの乾いた耕地にも見られ,アフリカ産には沼沢地の泥中にすむものもある。代表種のミカンアシナシイモリSiphonops annulatus(英名Mikan's caecilian)はコロンビアからアルゼンチンまで広く分布する。(5)アフリカアシナシイモリ科Scolecomorphidaeは5種がアフリカに分布する小さなグループで,鱗板も尾もないが,大きな触手をもつ。(6)ケララアシナシイモリ科Uraeotyphlidaeは1属4種がインドに分布し,ひだと鱗をもつ。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報