古生代後期の地質時代で、デボン紀とペルム紀(二畳紀)との間の約3億5890万年前から約2億9890万年前までの約6000万年間に相当する。石炭紀に形成された地層を石炭系という。イギリスでこの時代の地層中に石炭層を多く含むことからこの名称が生まれた。北米では、当紀の下半部に相当するミシシッピ紀Mississippianと上半部に相当するペンシルベニア紀Pencylvanianの二つの紀に区分されている。生物界では、温暖湿潤の環境下で森林を形成し、石炭の素材になったシダ植物やトクサ類の著しい繁栄と、森林生活に適応して急激に発展した節足動物のクモ類や昆虫類、脊椎(せきつい)動物の両生類が特筆される。
また、温暖な気候下の浅海では、原生動物の有孔虫類、刺胞動物のサンゴ類、触手動物の腕足類、棘皮(きょくひ)動物のウミユリ類に大発展を遂げたものがある。有孔虫類に属するフズリナ(紡錘虫類)は、石炭紀前期の末に出現し、石炭紀後期には多くの種・属が分化し、示準化石(標準化石)としても重要である。サンゴ類では床板サンゴ類にかわって四放サンゴ類が発展。ウミユリ類は、進化史上最大の繁栄期を迎え、地質時代の既知種の半数以上をこの時代に産する。触手動物の腕足類、軟体動物の頭足類・二枚貝類(斧足(おのあし)類)、原索動物のコノドント動物なども多様性に富み、地域内や国際的な地層の対比や分帯に利用されている。脊椎動物のなかでは、迷歯類とよばれる両生類の一群が発展を遂げ、このグループより進化したと考えられる最初の爬虫類(はちゅうるい)がこの時代の後期に出現。陸上植物では、無種子の維管束植物(ヒカゲノカズラ類、トクサ類を含む)、種子シダ類の著しい繁栄がある。これらの植物は、温暖湿潤な当時の気候のもとで広大な低湿地帯に大森林を形成し、多量の石炭層を残した。石炭紀の地層はすべての大陸に広く分布している。西ヨーロッパや北アメリカ大陸では一般に、下部に海成層が発達し、上部に夾炭(きょうたん)層を含む。ウラル山地西部のロシア卓状地には、石灰岩を主体とする一連の海成層が発達し、豊富な海産化石を産することから、その地層が国際的対比の基準となってきた。
日本の石炭系はすべて海成層からなり、その大部分は海底火山活動による火山砕屑(さいせつ)岩類の上に重なる石灰岩層からなる。その地層は、ペルム紀の石灰岩層を密接に伴い、陸源性の砕屑岩類を含まず、また時間欠如もなく連続したものである。この事実から、日本各地に分布する石炭‐ペルム系の石灰岩相は、赤道近くで、陸地から遠く離れた火山島の上に発達したサンゴ礁として形成され、ユーラシア大陸に付加したものであることがわかる。北上山地、飛騨(ひだ)山地、中国地方の石灰岩台地、西南日本外帯の秩父帯などに石炭系のまとまった分布が知られ、フズリナ類、サンゴ類、腕足類、軟体動物などの豊富な化石群を産する。石炭紀には、ユーラシア大陸西部でヘルシニア(バリスカン)造山運動が活発化し、激しい地殻変動があった。
[小澤智生・渡辺耕造 2015年8月19日]
『ドゥーガル・ディクソン著、小畠郁生監訳『生命と地球の進化アトラスⅡ デボン紀から白亜紀』(2003・朝倉書店)』
地質年代の一つ。古生代後半,デボン紀と二畳紀の中間にあって,バリスカン造山運動の起こった時代。今から3億6000万年前から2億8600万年前までで,世界の主要夾炭層はこの時代に形成された。時代名はこの事実にちなむもので,W.D.コニーベアとJ.フィリップスによって1822年提唱された。頭足類ガッテンドルフィアGattendorfiaの出現をもって石炭紀の始期とされる。前半は石灰岩を含む海成層が多く二つの世に分けられる。後半は三つの世に分けられるが,ヨーロッパやアメリカの石炭層は主としてこの時期のもので,陸上では封印木,蘆木などの裸子植物の森林が生じ,両生類,昆虫類が出現した。しかし,前半に引き続き海成層の発達したところも多く,その代表は旧ソ連で,そこでは五つの世が区別され,地層には,フズリナ,サンゴ,腕足類の化石を多産する。なお北アメリカではペンシルベニア紀,ミシシッピ紀に二分し,独立した紀としているが国際的には認められていない。石炭を含む地層は,バリスカン造山運動によってカレドニア,バリスカン山地の前面に広がった低湿地に形成された。
日本の石炭系は岩手県南部北上山地,山口県秋吉台など沖縄をのぞく各地に分布しているが,ほとんどすべてが海成層で,ヨーロッパやアメリカとは異なり海底火山の活動の産物である緑色の火山岩,凝灰岩が多く含まれている。北上,阿武隈,飛驒の各高地などでは年代的に石炭紀に含められる花コウ岩や,結晶片岩の存在が知られているのと,石炭紀の後半になると,海底火山の活動が衰えて石灰岩の地層が増えることから,この間にやはりなんらかの変動があったことが考えられる。当時日本はテチス海とよばれる海域の東端に位置していた。
石炭系と二畳系との境界については,海成層が連続して発達しているところでは論議が絶えない。一般的にはフズリナの1属シュードシュワゲリナPseudoschwagerinaの出現をもって石炭紀の終期,二畳紀の始期とされる。しかし,両紀の堆積物が相伴って発達することの多いのは事実で,一括して二畳~石炭系として取り扱われることも多い。石炭紀の気候は全体を通じて温暖であったと考えられるが,ゴンドワナ大陸には石炭紀後半から氷床が広がったとみられている。
→地質時代
執筆者:加藤 誠
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