約200種からなるホウライシダ科クジャクシダ属の多年生シダ植物であり,これらを花卉(かき)園芸ではアジアンタムと呼んでいる。日本にはホウライシダA.capillus-veneris L.やクジャクシダA.pedatum L.など7種を産する。根茎ははい,葉は通常,細かく切れ込み,葉片は膜質から硬紙質で,くさび形や平行四辺形,扇形のものが多く,まれに単葉となる。胞子囊群は通常,葉片の辺縁に単生し,偽包膜と呼ばれる折れ返った葉片の一部につつまれる。胞子はシダ植物の中でも寿命が長く,10年以上生きるものがある。生長するにしたがって,葉柄や若葉が赤からピンクに変化するもの,葉が細かく端正に切れ込むもの,細くて光沢のある葉軸やゆったりと涼しげな風姿などが愛され,観葉植物として広く栽培される。着生のものも多く,栽培にあたっては用土の排水性に注意するほか,極端に乾いた空気に長時間さらさないなどの注意が必要。好条件下での繁殖力はつよく,ホウライシダなどは栽培のものから逸出したり,人家の近くに帰化することもある。
クジャクシダ属Adiantumは熱帯から暖帯に多く,クジャクシダのように夏緑性で,温帯に産するものもある。園芸品種として導入されているもののうち,野生種には,旧世界の熱帯のアラゲクジャクA.hispidulum Sw.,東南アジア,インド,ヒマラヤのクジャクデンダA.caudatum L.,ブラジルのカラクサホウライシダA.cuneatum Langsd.et Fisch.,熱帯アメリカのヒシガタホウライシダA.trapeziforme L.,ヒロハクジャクA.macrophyllum Sw.などがある。広く栽培されているのはカラクサホウライシダを中心に改良されたもので,葉片がひじょうに細かくなったもの(cv.Gracillinum,cv.Micropinnulum,cv.Microphyllumなど),葉片にあざやかな白やピンクの斑(ふ)が入るもの(cv.Variegatum),葉片が重なりあったり(cv.Pacottii)帯化したりするもの(cv.Cristatum)など多彩である。繁殖は株分けと胞子によるが,改良されたものでは,胞子から育てると原種にかえることがある。
執筆者:光田 重幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イノモトソウ科のクジャクシダ属の総称。熱帯から温帯にかけて約200種が分布し、日本にも自生種がある。葉の縁が裏側に反り返って包膜状になり、内側に胞子嚢(のう)群をつけるのが特徴で、葉柄は黒ないし紫褐色で光沢がある。クジャクシダA. pedatum L.は日本各地に自生し、葉は鳥足状に8~13羽片があり、クジャクが羽を広げたようにみえる。庭に植えたり、鉢植えによい。ハコネシダは岩手県以南に自生し、小葉はイチョウ葉形で先端のくぼみに胞子嚢を1個つける。漢方では全草を石長生(せきちょうせい)と称し、利尿、通経、去痰(きょたん)剤とする。カラクサホウライシダA. raddianum K. Preslは熱帯アメリカ原産で、フリッツ・ルーシーcv. Fritz-Luethiiなど多くの園芸品種があり、強健で草姿がよく、観葉鉢物として栽培され、結婚式の花束にも使われる。冬は8℃以上に保ち、半日陰で空中湿度が高いほうがよい。アラゲクジャクA. hispidulum Sw.はアジア、アフリカ、オーストラリアの熱帯に分布し、全体に粗毛があり暗灰緑色で、新葉は淡紅色。強健で乾燥にも耐えるが、じみで栽培は少ない。ヒロハクジャクA. macrophyllum Sw.とヒシガタホウライシダA. trapeziforme L.は熱帯アメリカ原産の大形種で観賞温室などで栽培される。小羽片は5~6センチメートルになる。前種は1回羽状複葉、後種は2回羽状複葉となり区別される。繁殖は株分けにもよるが、胞子から育てるほうが有効である。水苔(みずごけ)植えまたは、腐葉土、ピートモスを混ぜた排水のよい軽い用土で育てる。
[高林成年]
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