日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒナゲシ」の意味・わかりやすい解説
ヒナゲシ
ひなげし / 雛罌粟
corn poppy
[学] Papaver rhoeas L.
ケシ科(APG分類:ケシ科)の耐寒性一年草。ヒナゲシ類を総称する英語名であるポッピー、もしくはポピーの名でよばれることが多い。ヨーロッパ原産。ヨーロッパではトウモロコシ畑によく生えるので、コーン・ポッピーの英名がついた。よく植えられる園芸品種はシャーレー・ポピーという。ヒナゲシの仲間にはアジア北東部原産のシベリアヒナゲシやミヤマヒナゲシ、タカネヒナゲシ、ナガミヒナゲシを含め、約80種ある。高さ60~80センチメートル。葉は羽状に裂け、茎、葉ともに毛がある。花色は紅、桃、白色で、一重と八重咲きの品種がある。切り花、花壇用に栽培される。ヨーロッパでは昔から、煎(せん)じて薬用とした。9月下旬~10月に播種(はしゅ)するが、ケシ科特有の直根性で移植を嫌うので、幼苗期に移植するか、直播(じかま)きにするのがよい。性質はじょうぶで、一度植えると毎年こぼれ種で開花する。
[横山二郎 2020年2月17日]
文化史
古代のエジプトでは花飾りに、古代ギリシアでは薬用にされた。ディオスコリデスは、葉や煎(せん)じ汁を湿布にして炎症の治療に、種子を緩下(かんげ)剤に使うと述べている(『薬物誌』)。ヒナゲシの中国名とされる虞美人草(ぐびじんそう)の名の由来には異説があり、『三国志』の当時ヒナゲシは中国になく、舞草(マイハギ)が真の虞美人草であるともいわれる。しかし明(みん)代以降の虞美人草はヒナゲシのことである。日本には江戸時代の前期に伝わり、『訓蒙図彙(きんもうずい)』(1666)に図がある。『花壇地錦抄(ちきんしょう)』(1695)では美人草の名のもとに、くれない八重、一重と白八重、一重の品種があげられ、『草花絵前集』(1699)には八重の図がある。
[湯浅浩史 2020年2月17日]