アヒンサー(英語表記)ahiṃsā

山川 世界史小辞典 改訂新版 「アヒンサー」の解説

アヒンサー
ahiṃsā

仏教ジャイナ教のみならずバラモン教においても重要な概念。「不殺生」と訳される。ヴェーダの祭式において犠牲獣を殺すことのみならず,穀物を脱穀すること,神々の飲み物ソーマをしぼることも殺すことと考えられ,祭詞の使用などにより殺生の名目的回避が図られた。ブラーフマナ文献よりみられる輪廻(りんね)思想で説かれる,生前に殺生を行った者は死後,殺した対象から責苦を受けるという観念により,一層アヒンサーは定着した。インドの諸宗教の説く菜食主義の重要な背景をなす。インド独立運動時代,ガンディーは,彼のサティヤーグラハ闘争の原則としての非暴力抵抗運動をアヒンサー(非暴力)と呼び,新たに政治的・社会的意味を与えた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アヒンサー」の意味・わかりやすい解説

アヒンサー
ahiṃsā

不殺生,不傷害。インド宗教一般の重要な思想の一つ。すでにベーダの一部をなすウパニシャッドにみえ,ジャイナ教においても,大小を問わず,動植物はもとより,一切の生類の殺害を禁止している。仏教においても,最初期の仏教に不殺生の思想がみえ,修行者の守るべき重要な戒に含まれている。また,アショーカ王詔勅にも記されている。大乗仏教もこの不殺生を絶えず説く。ヒンドゥー教においては特に近代の政治家,思想家であったガンジー非暴力主義唱え,特にアヒンサーの重要性を強調した。中国,日本の仏教においても不殺生 (→不殺生戒 ) の重要なことは疑いの余地はない。

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改訂新版 世界大百科事典 「アヒンサー」の意味・わかりやすい解説

アヒンサー
ahiṃsā[サンスクリツト]

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世界大百科事典(旧版)内のアヒンサーの言及

【ガンディー】より

…アフリカ滞在期に執筆された《ヒンドゥー・スワラージHindū Swarāj(インドの自治)》(1909)という小冊子は,彼の特異な文明観,農村手工業の発展を強調するインド社会論を展開している。17年にビハール州チャンパーラン県でのインディゴ(藍)小作争議,翌年グジャラート州アフマダーバードの繊維労働者の争議を〈アヒンサー(非暴力)〉の原則を貫徹して解決。そして第1次大戦後,ローラット法反対,アムリッツァル虐殺糾弾,ムスリムのヒラーファト運動を糾合して19‐22年に展開された第1次サティヤーグラハ闘争は,彼をインド民族運動の最高指導者として位置づけた。…

【ジャイナ教】より

…仏教の開祖ゴータマ・ブッダとほぼ同時代のマハービーラ(前6~前5世紀)を祖師と仰ぎ,特にアヒンサー(生きものを傷つけぬこと。〈不殺生〉)の誓戒を遵守するなどその徹底した苦行・禁欲主義をもって知られるインドの宗教。…

【非暴力】より

…彼が南アフリカでインド人の人権擁護のための政治運動の理念として案出した〈サティヤーグラハ(真理の把捉)〉に起源を有する。この非暴力の原語はアヒンサーahiṃsāであるが,これは元来,古代のベーダの祭りの重要な要素として家畜を殺害すること(ヒンサー)に対して,輪廻とそこからの解脱を唱える人々によって強調された大きな徳目で,あらゆる生物を傷つけたり殺したりしないことを意味する。例えば,仏教やジャイナ教では,五戒の一つとして数えられている。…

【平和】より

…とはいえ,一般的にいって,西洋キリスト教文明圏では正義実現のための戦いの意思(〈平和のための戦争〉)や征服によって実現された敵国に対するローマの完全支配と,もはや戦争のない状態としての秩序の維持(〈パクス・ローマーナ〉)にみられるように,平和への態度が外向的,政治的であるのに対して,東洋文明圏では逆に,憎しみをもたない心の平安といった内向的,非政治的な態度が支配的である。それは仏教におけるアヒンサーahiṃsā(〈包容力〉〈不殺生〉)に表れているし,また日本人の中世以来の民衆の平和感覚が〈現世安穏,後生善処〉(法華経)であり,よくいえば生活防衛的な,悪くいえば退行的,消極的である点にもみられよう。西洋的な平和観における正義の実現は心の平安のみか,秩序とも矛盾することがありうるが,東洋的なそれでは,逆に受動的な静寂主義へと後退するだけでなく,ときに不正義を放置する事なかれ主義に堕すおそれがあろう。…

※「アヒンサー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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