アメリカの作家、ドライサーの長編小説。1925年刊。貧しい伝道師の息子クライド・グリフィスは伯父の工場で働くうち、女工ロバータに心をひかれ、深い関係に陥る。だが、社交界の美女ソンドラとも偶然知り合い、交際が進展してゆく。おりあしくロバータは妊娠して結婚を迫り、板挟みになりながらもソンドラとの結婚と富裕な生活を夢みるクライドは、山中の湖にロバータを誘い出し、ボートを転覆させて殺そうとする。しかし決定的瞬間に意志が麻痺(まひ)してボートは偶然の成り行きで転覆、ロバータは溺死(できし)する。政争に利用された裁判の結果クライドは死刑となるが、自分の罪に深い疑惑を抱いたまま死んでゆく。1906年のジレット・ブラウン事件をモデルに、環境と本能に支配される人間の悲劇性を見つめ、物質的成功への夢を無責任にあおるアメリカ社会を批判したアメリカ自然主義の代表的作品。1931年ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督により、1951年には『陽のあたる場所』の題名でジョージ・スティーブンス監督により映画化されている。
[大浦暁生]
『大久保康雄訳『アメリカの悲劇』全2冊(新潮文庫)』
アメリカの作家ドライサーの小説。1920年に着手,5年の歳月をかけて完成され,出版(1925)後1年間に5万部を売り,読書界にセンセーションをまきおこした大作。1906年にニューヨーク州ビッグ・ムース湖で起こった殺人事件をモデルに,貧しい街頭伝道師の息子クライド・グリフィスが上流階級の娘との結婚を夢みて,愛人だった女工のロバータ・オールデンを殺し,電気椅子に送られるまでの過程を追い,徹底したリアリズムで克明に描いたもの。物質万能主義のアメリカ社会で,貧しく,無知で,虚栄心に富む青年が破滅する悲劇をとりあげ,〈アメリカの夢〉の意味を追究し,アメリカ文明を糾弾したもので,アメリカ自然主義小説の最高傑作といわれる。26年ブロードウェーで上演され,31年にパラマウント社が映画化し,51年にもジョージ・スティーブンズ監督で《陽のあたる場所A Place in the Sun》という題名で映画化された。
執筆者:井上 謙治
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…その後,ギャング映画の先駆けとなった《暗黒街》で注目され,続いてアメリカのサイレント映画末期の代表作の一つ《紐育の波止場》(1929)をつくり,ひき続いてドイツへ出かけて,〈スクリーン・エロティカ〉の古典となったUFA(ウーフア)社のトーキー第1作《嘆きの天使》でディートリヒにめぐりあい,彼女を連れてハリウッドに帰り,画期的な音声処理を示した《モロッコ》(1930)をはじめ6本のディートリヒ主演映画をつくる。その間に原作者のT.ドライサーを激怒させたという《アメリカの悲劇》(1931)などを撮り,〈光と影の叙情詩人〉といわれ,カメラを画家の筆あるいは詩人のペンのように使うと評されたが,ディートリヒとのかかわりを〈ピグマリオンとガラティア〉の関係にたとえられ,作品よりも主演女優を美化する自己陶酔的な傾向が強いとの批判を受け,私生活のスキャンダルもからんで《西班牙(スペイン)狂想曲》(1935)を最後にディートリヒとのコンビが解消され,〈映画作家〉としての一つの時代を終える。その後ディートリヒの幻影を追い求めて華麗な〈官能的映像〉をよみがえらせた《上海ジェスチャー》(1941)のようなスタンバーグならではのメロドラマの傑作を生み出したものの興行的には不成功で,恵まれない末路をたどる。…
…15年,自伝的小説《“天才”》がニューヨーク悪徳防止協会から告訴され,わいせつのかどで発禁処分を受けたが,H.L.メンケン,シャーウッド・アンダーソンなど文化人478名が抗議するなど話題を呼んだ。評論集《ヘイ・ラバ・ダブ・ダブ》(1920),戯曲《陶工の手》(1918)を出したのち,《アメリカの悲劇》(1925)を出版,国際的にも名声を得た。これにより27年にソ連革命10周年記念に招待され,《ドライサー,ロシアを見る》(1928)を出す。…
…1951年製作のアメリカ映画。ジョージ・スティーブンズ製作・監督作品で,1906年にニューヨーク州で起きた殺人事件とその裁判を題材にしたT.ドライサーの小説《アメリカの悲劇》(1925)の2度目の映画化である。最初の映画化は31年にジョセフ・フォン・スタンバーグ監督により行われ,原作と同じ題のまま〈ロマンティック・メロドラマ〉としてつくられたが,サミュエル・ホッフェンスタインの脚本を読んでその換骨奪胎ぶりに激怒したドライサーが,映画の公開を阻止しようとして法廷で争って敗れたといういきさつがある。…
※「アメリカの悲劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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