日本大百科全書(ニッポニカ) 「イオン選択電極」の意味・わかりやすい解説
イオン選択電極
いおんせんたくでんきょく
ion-selective electrode
特定のイオンに選択的に感応して、イオン濃度(活量)に応じた出力(基準電極に対する電位差)を発生する電極。イオン電極ともいう。コンパクトで軽量、野外などでも簡単に使え、試料液を前処理することなく迅速に測定できる、直線応答濃度範囲が5~6桁(けた)にも及ぶなど多くの利点をもち、いろいろの分野で広く用いられている。古くから知られている代表的なイオン選択電極は、水素イオンに感応するガラス膜電極による水素イオン濃度指数(pH)の測定である。その後、数多くの優れた電極が開発され、測定対象が著しく広がった。
イオン選択電極はイオン応答部に膜を使うが、この膜の性状により、ガラス膜、固体膜、液膜の各電極に分けられる。ガラス膜電極の代表はpH応答性ガラス電極である。膜の素材は、ナトリウム‐カルシウムケイ酸塩またはケイ酸リチウムで、ケイ酸塩の加水分解を抑え、ナトリウムイオンの移動度を下げるためにランタンやバリウムなどのイオンがドープ(添加)してある。ガラス膜の厚さは普通0.03~0.1ミリメートルであり、水に浸したガラス膜の表面で、溶液中の水素イオンとガラス膜中のナトリウムイオンやリチウムイオンとの間でイオン交換がおこる。ケイ酸基は固定されているが、水素イオンは自由に移動したり、ほかのイオンと交換したりできる。試料液と基準電極(参照電極、比較電極などともいう)とは、液絡部(液と液とを接触させて、電気的に接続する場所。いろいろな形式があるが、いずれも狭いすきまから内部液がわずかににじみ出て、試料液に接触するようになっている)のきわめて小さな孔(あな)を通して電気的につながっているので、膜を通した両電極間に発生した電位差を電位差計で測定する。膜の組成が変われば、ほかのイオンとの交換が起こりやすくなる。たとえば、ケイ素の一部をアルミニウムで置換するとナトリウムイオンに対する選択性が高くなる。これがほかのイオンに選択的なイオン選択電極の基本原理である。固体膜電極は膜にイオン導電性固体を用いたもので、たとえば、フッ化物イオン選択電極は、フッ化ランタンの単結晶にユウロピウムをドープした膜を用いている。液膜電極には、イオン交換体を有機溶媒に溶かしたイオン交換体型電極と、イオン選択性イオノフォア(金属イオンや親水性有機イオンなどと錯体をつくって有機溶媒に溶けたり、生体膜や人工膜のような親油相を通したりして、それらのイオンを輸送する働きをもつ有機分子)を用いたイオノフォア電極とがある。前者の例として、イオン交換体にカルシウムの有機リン化合物を用いたカルシウムイオン選択電極が、後者には、バリノマイシンをジフェニルエーテルに溶かしたカリウムイオン選択電極などがある。その他さまざまな感応膜が知られている。20種類を超すイオン選択電極が市販されており、教育・研究、農学、医療、食品、冶金(やきん)・めっき工業その他、とくに環境計測関連の河川水質自動監視、食品中の塩分濃度計など身近で用いられているものが多い。
[高田健夫]
『鈴木周一編『イオン電極と酵素電極』(1981・講談社)』