日本大百科全書(ニッポニカ) 「イカ石」の意味・わかりやすい解説
イカ石
いかせき
ikaite
炭酸塩鉱物の一つ。1916年イギリスで冷蔵庫の中で実験的に短時間で合成され、1962年新鉱物として記載された。天然鉱物はグリーンランドのイカ・フィヨルドIka fiordの出口にあって、海水面下で上側に乗り出した石灰岩の岩礁の下面に着生した物質として採集された。これが魔法瓶中で保存されてコペンハーゲンに空輸され、そこで合成物との一致が確認された。生成温度は0~5℃。8℃で脱水分解して方解石となる。
日本では北海道足寄(あしょろ)町にあるシオワッカ(半ドーム状の石灰華)の冷炭酸泉(二酸化炭素泉)の周囲に冬季限定生成物として粉末状のものを産し、モノヒドロカルサイトmonohydrocalcite(Ca[CO3]・H2O)と共存する。沖縄周辺の南海トラフから回収された海底堆積(たいせき)物中からも発見されている。本鉱物は周辺が刃のようになった自形結晶をなし、その集合の外観がいわゆる玄能石の方解石仮晶と形態的に酷似する。玄能石の本体は長い間謎(なぞ)であったが、少なくともその一部の原鉱物はイカ石であった可能性がある。命名は原産地にちなむ。
[加藤 昭 2015年12月14日]