大学事典 「イギリスの大学法制」の解説
イギリスの大学法制
イギリスのだいがくほうせい
イギリスの法制上,大学は国王・女王の勅許状(イギリス)により法人格および大学の地位を認められた公的法人(イギリス)(corporation(イギリス))であり,自治権を享受するということになる。このことは国家・王権や地方政府から法制上ないし機構上独立しており,大学は独立的地位と独自の学位授与権(イギリス)を有する高等教育機関であることを意味する。また,理事会は大学の業務執行の長として学長を選任し,業務の執行を託する。イギリスの大学はすべて独立の法人として設置され,同様の法的地位を有するが,設置認可の手続きや名称は大学により異なるため,以下にその違いを示す。
[高等教育一元化以前からの大学―旧大学]
[勅許法人(イギリス)] 1992年の継続・高等教育法(イギリス)以前から存在している大学は,大学ごとに国王から授与される設立勅許状(イギリス)(Royal Charter(イギリス))により,勅許法人としての法的地位と学位授与権が与えられているのが一般的である。勅許法人は,勅許状および勅許状の付属文書(statutes)により,個々の大学の管理運営に関する基本的枠組みや細則が定められていると同時に,基本的には教会等と同等の慈善目的を持つ慈善法人(イギリス)(eleemosynary corporations(イギリス))であることが,1601年慈善目的付属文書(イギリス)(The Statute of Charitable Uses of 1601(イギリス))に特定されている。大学は非営利機関であり,慈善活動で得た利益はその目的に合致した事柄にしか利用できない(『英米法辞典』東京大学出版会,1991)。
設立勅許状およびそれに付属する大学規程には,大学の管理運営機関の組織や権限,大学の役職者の職務権限や任命方法,教員の採用や解雇,財務などについて基本的な事項が規定されている。この枠組みに沿って学部,学科編成,学位・資格の種類,入学要件,人事,規律等大学運営に必要な規則が学則で定められている。大学の設置認可については,とくに法令上の基準は設けられておらず,個々に審査が行われ勅許状が交付されてきた。また設立勅許状と大学規程の内容変更については枢密院(Privy Council:国王の諮問機関)の認可を必要とするが,学則に関しては枢密院の承認は不要である。
[個別法による法人] オックスフォードおよびケンブリッジの両大学は,1923年の「オックスフォードおよびケンブリッジ法(イギリス)(Oxford and Cambridge Act(イギリス),1923)」に基づいて運営されている。重要な改定には枢密院の承認を要するが,両大学は大学学長委員会(CVCP)の枠外にあったため,ほかの高等教育機関と歩調を合わせる必要もなく,独自の大学運営を営むことが可能であった。ほかにダラム大学およびニューカッスル・アポン・タイン大学も勅許状によらず,1963年成立の「ダラム大学およびニューカッスル・アポン・タイン大学法(イギリス)」に基づき運営されている。
[会社法人] ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(イギリス)(LSE)は,1901年会社法により有限責任保証会社(イギリス)(company limited by guarantee(イギリス))として法人の認定を受けた。イギリスにおいて,有限責任保証会社は一般に慈善法人であり非営利機関である。
[1992年以降の大学―新大学]
[高等教育法人(イギリス)] 1988年の教育改革法により,地方教育当局(イギリス)(Local Education Authority(イギリス): LEA(イギリス))が設置し管理してきた教育機関の中で,次の条件に該当する教育機関は自動的に高等教育法人としてLEAから独立することになった。その条件とは,フルタイムに換算した上級継続教育課程(イギリス)の在学者数が350名を超え,かつその数がフルタイムに換算した総在学者数の55%を超えていること,あるいはフルタイムに換算した上級継続教育課程の在学者数が2500名を超えていることである。この結果,ポリテクニクと少数のカレッジ,高等教育カレッジおよびインスティテュートやユニバーシティ・カレッジが高等教育法人となった。本措置は各LEAや機関が法人化を申請し,教育担当大臣がこれを認可するといった任意の申請によるものではなく,法律により一律に法人化を図るものであった。これら高等教育法人は教育担当大臣の承認を得て管理運営規則を定め,これに則って運営される。
1992年の継続・高等教育法以前は,高等教育法人は依然として学位授与権を有していなかった。しかし,これら高等教育法人の中でも法令上の規定ではないものの一定の条件を満たした機関が,任意に行う申請に基づき枢密院での審査を経て,1992年の継続・高等教育法により学位授与権と大学の名称を受けることが認可されることになった。イギリスにおいて大学という名称を受ける場合に備えなければならない条件とは,次の3点である。第1は当該高等教育機関に「研究学位(博士)課程(イギリス)」が設置されていること,第2は審査基準にある11の学問領域の中で,少なくとも5領域において300名以上のフルタイム相当学生が在学していること,第3は最低4000名のフルタイム相当学生が存在していること(そのうち最低3000名は学士課程レベルに在学していなければならない)である。なお,第1の条件は2004年度以降変更となり,「研究学位(博士号等)課程」が設置されていなくても大学という名称を受けることが可能となった(DfES(イギリス),2004年9月1日)。
著者: 秦由美子
参考文献: Department of Education and Science; Scottish Office; Northern Ireland Office; Welsh Office, Higher Education: A New Framework, London: HMSO, 1991.
参考文献: Her Majesty's Stationery Office(HMSO), Education Reform Act 1988, London: HMSO, 1989.
参考文献: HMSO, Further and Higher Education Act 1992, London: HMSO, 1993.
参考文献: 篠原康正「イギリス」,文部科学省『諸外国の教育の動き〈2004〉』,2005.
参考文献: 田中英夫ほか編『英米法辞典』東京大学出版会,1991.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報