日本大百科全書(ニッポニカ) 「イトヒキハナダイ」の意味・わかりやすい解説
イトヒキハナダイ
いとひきはなだい / 糸引花鯛
threadfin yellow bass
[学] Tosanoides filamentosus
硬骨魚綱スズキ目ハタ科ハナダイ亜科に属する海水魚。静岡県の大瀬崎(おせざき)・熱海(あたみ)、伊豆大島、高知県の沖の島などの太平洋岸に分布する。体は楕円(だえん)形で、側扁(そくへん)する。両眼間隔域は強く突出し、その幅はおよそ眼径大。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は瞳孔(どうこう)の後縁下に達する。上顎には2列の歯が並び、外列歯は犬歯状で、内列歯は絨毛(じゅうもう)状。上顎前端に1~2本、後部に1本の犬歯がある。下顎には1列の犬歯状の歯が並び、前端に大きな1本、後ろに2本の犬歯がある。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)と口蓋骨に幅の狭い絨毛状歯帯があり、鋤骨ではV字形。舌上には歯がない。口蓋骨に狭い絨毛状の歯帯がある。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の後縁は鋸歯(きょし)状。主鰓蓋骨に3本の扁平(へんぺい)な棘(きょく)があり、中央部のものは最長。前鰓蓋骨の隅角(ぐうかく)部は丸く、上部は細かな鋸歯縁で、下部は円滑。間鰓蓋骨と下鰓蓋骨の縁辺は円滑。体はやや大きな櫛鱗(しつりん)で覆われ、口唇と喉部(こうぶ)は無鱗。背びれと臀(しり)びれは鱗(うろこ)をかぶらない。背びれ起部と側線の間に3枚、臀びれ起部と側線の間に14枚の鱗が並ぶ。背びれには欠刻(切れ込み)がなく、第1棘は最長。胸びれは13軟条で、頭長より長く、すべての軟条は分枝しない。腹びれは長くて臀びれの起部を越える。尾びれは湾入し、両葉の各2軟条は糸状に伸長する。体は橙赤(とうせき)色で、体側に多数の黄色斑(はん)が縦に列をなして並ぶ。目の上方と前方、背びれの起部の下方に黄色縦帯がある。最大体長は10センチメートルほどになり、水深40~65メートルの岩礁域の海底近くで単独あるいは小数の群れですむ。
[尼岡邦夫 2021年8月20日]