イフェ王国 (イフェおうこく)
ナイジェリア連邦西部,イフェを都とするヨルバ族最初の王国で,11世紀初頭までにはつくられていた。ヨルバの伝承によれば,人類発祥の地はイフェIfeであり,そこに天の神オロルンが降臨させたオドゥドゥワが王国をつくった。オドゥドゥワはイフェの最初の支配者であると同時に,その後周辺につくられてゆくヨルバ族の諸王国の先祖とされている(どの王国の創世神話でも,先祖はイフェ王国の王子とされている)。その後ナイジェリア西部に勢力を誇ったオヨ王国も,またヨルバ系文化を担ったベニン王国も,この王国を宗主国とし,その都イフェを宗教上の中心地として奉った。したがってイフェ王国は世俗的には強大な力をもたなかったにもかかわらず,侵してはならぬものとして存続した。1793年オヨ王アウォレが奴隷狩りのためにイフェに侵入した際,内部からの激しい反発を招き失敗している事実が,イフェとその他のヨルバ族の諸国との関係をよく示している。しかしこの関係もしだいに現実の力関係に取って代わられ,19世紀にはフルベ(フラニ)族に圧迫されたオヨ王国に領土の一部を奪われるにいたった。そして19世紀末にはこの領土を占拠したオヨとイバダンとの連合軍によって滅ぼされた。
イフェはまたテラコッタおよび青銅の像(特に頭部像)が出土することでも有名である。この芸術を発見したのはドイツの民族学者レオ・フロベニウスで,1910年のことである。アフリカの造形芸術には,身体の部分を強調するものが多いが,イフェのそれは写実にその特徴がある。これらの像は王と廷臣たちのもので,毎年死者の祭祀のために使われたもののようであるが,いつごろつくられたのか,ヨルバ族自身の手になるものなのか(フロベニウスは,古代ギリシア人がこの地に到来してつくったと考えた)はまだわかっていない。しかし北東ナイジェリアのノク文明の出土品に,写実性の強いテラコッタ像(前900-後200)が多く含まれており,イフェの出土品もこの文明の伝統を受け継いでいることは確かなようである。
執筆者:井上 兼行
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イフェ王国(イフェおうこく)
Ife
西アフリカ,ナイジェリア西部のイフェを都に,11世紀に創設されたヨルバ人の王国。神話上の英雄オドゥドゥワを祖とし,彼の後裔がオヨ王国,ベニン王国も創設したとされるため,イフェは宗教上の中心都市であった。テラコッタや青銅製の像など造形芸術に優れたものを生み出した。神聖国家のおもむきがあったが,19世紀にはみずからの後裔であるオヨ王国に侵害され,19世紀末オヨとイバダン両国軍に滅ぼされた。
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イフェ王国【イフェおうこく】
ナイジェリア西部のイフェを中心に栄えたヨルバ族の王国。ヨルバ族のある伝承によれば,イフェは,神の子オドゥドゥワが神に遣わされて天より降り立ち,人類の始祖となった地とされている。イフェ王国はオドゥドゥワによって建国され,その後の諸王たちはその末裔とされた。11世紀ごろまでに形成され,19世紀に滅んだ。
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世界大百科事典(旧版)内のイフェ王国の言及
【王】より
… 同じことは即位式にも現れる。西アフリカのイフェ王国やジュクン王国では,即位式に際して,新王は先王の内臓の一部を食べる。この行為は内臓に祖先の力が宿るという考え方に基づいており,この〈食人〉を通して,祖先の力が先王から新王へと,宿る身体を換えるのである。…
【部族美術】より
…10~15世紀にはヨルバ族の宗教都市イフェで青銅,石,テラコッタ製の人物像や人頭が制作された。その様式は非常に写実的で,骨,筋肉,皮膚の詳細を的確に表現し,とくに青銅彫刻の鋳造技術は抜群である([イフェ王国])。イフェ王国の青銅彫刻の伝統はビニ族の[ベニン王国](14~19世紀)に受けつがれた。…
【ヨルバ族】より
…ヤムイモ,キャッサバ,トウモロコシなどを主作物とする農耕民であるが,伝統的に大規模な都市的集落を形成し,独自の政治組織を発達させてきた(1931年の統計では人口2000以上の集落に全人口の80%が集中し,人口2万以上の都市の居住者も35%に達した)。 ヨルバは,[イフェ王国],[オヨ王国],イジェシャIjesha王国,イジェブIjebu王国,オンドOndo王国,エキティEkiti王国,エグバEgba王国など,13,14世紀に成立したとみられる,10余りの独立的な王国を形成してきた。各王国は政治的・宗教的権威としての王をいただくが,政治組織の構成はそれぞれに異なる。…
※「イフェ王国」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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