イタリアの評論家、美学者、記号論者、小説家。トリノ大学で美学を専攻。『トマス・アクィナスにおける美的問題』(1956)、現代芸術の新しい傾向を「開かれた作品」と規定し、ジョイスの文学を実作に則して論じた『開かれた作品』(1962)を著し、新前衛派(63年グループ)に加わり、サングイネーティ、アルバジーノ、バレストリーニらとともに反リアリズム文学を唱え、『クインディチ』誌の反体制運動にも参加した。哲学分野では『不在の構造』(1962)、『内容の諸形態』(1971)、『記号論』(1975、英語版1976)などがある。1971年からボローニャ大学教授となり、長編小説『薔薇(ばら)の名前』(1980)を出版して、世界的に話題を集めた。ほかに長編小説『フーコーの振り子』(1988)、『前日島』(1994)、自伝的な要素も加えた『バウドリーノ』(2000)などがある。
[河島英昭 2018年6月19日]
『池上嘉彦訳『記号論』1・2(1980・岩波書店/講談社学術文庫)』▽『河島英昭訳『薔薇の名前』上・下(1990・東京創元社)』▽『藤村昌昭訳『前日島』(1999・文芸春秋/文春文庫)』▽『藤村昌昭訳『フーコーの振り子』上・下(文春文庫)』▽『篠原資明著『現代思想の冒険者たち29 エーコ』(1999・講談社)』
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イタリアの美学者,記号学者。トリノ大学で美学を専攻し,観念論を排した新しい見地から学位論文《トマス・アクイナスにおける美学的問題》(1956)を著す。これは中世美学研究に貴重な寄与をなしたが,傾倒する中世トミズムをはからずも歴史的に相対化する結果となった。以後ジョイスへの関心を軸に〈秩序〉の崩壊した現代における美学的問題の考察へ向かい,1962年《開かれた作品》を発表,〈渾沌〉をめざす前衛芸術の詩学を,情報理論を活用して意義づけ,折からの新前衛派運動における理論的支柱となる。さらにマス・メディアも含めて文化一般を統一的観点から捉える方法として記号論に到達し,《不在の構造》(1968),《内容の形式》(1971)を経て《記号論》(1975)に体系化を果たす。近年は記号論の立場からテキストと読者の関係を追究し,また処女小説《薔薇の名前》(1980)を発表している。
執筆者:林 和宏
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