もともとの意味は、宗教上の教義を「教え込むこと」を目的とした中世のカトリック教会の教育に起源をもつ。現在では、一定の社会的、政治的、経済的、宗教的な信条、教義を絶対的真理とみなし、それを相手の批判的検討なしに一方的に「教え込むこと」ないし「注入すること」を意味している。第二次世界大戦前の絶対主義的ないしファシズム的教育体制にその典型がみられるが、民主的教育体制のもとにある現在では、子供の批判的精神を育て、思考の自由を尊重する立場からも、一般に拒否されている。しかし最近では、教師が自ら信じるところを教え込むことは、その確信が科学的根拠に基づき十分批判的に形成されており、子供にそれを批判的に検討する条件が確立されていれば、かならずしも拒否されるべきではない、という考えもある。これは、子供の主体的学習を前提としたうえで、科学的真理を教え込むことを、かなり積極的に認めようとする立場である。これに対し、科学を絶対視するあまり、子供の個性や理解力を無視して一定の知識を注入したり条件づけたりすることは、一種の科学主義の立場にたつ「教え込み」であるとして批判する人も多い。
[森川 直]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… しかし,現実の庶民の教育機関は,教会によって組織された教会学校での初歩的な読みreading,書きwriting,算reckoning(この三つをスリーアールズ3R’sという)とともに教理問答(カテキズム)を主とする宗教=道徳教育を中心とし,社会への同化と社会秩序維持のための手段として発展し,さらに資本主義の発展に伴い,工場法による児童労働への一定の保護規定と結びついて発展する。しかし,そこでの教育は,個人の可能性を引き出すeducereという意味での教育educationというよりは,既成の価値観を注入するという意味での教化=インドクトリネーションindoctrinationに近かった。ここでは子どもの発見とは,子どもの学校への囲込みに通じていた。…
※「インドクトリネーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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