日本大百科全書(ニッポニカ) 「うたい骸骨」の意味・わかりやすい解説
うたい骸骨
うたいがいこつ
昔話。死者の霊魂の力で真実が明らかになることを主題にした宗教譚(たん)の一つ。2人の友人が出稼ぎに行く。帰途、働きのなかった男が、友人を殺して、金を奪って帰る。のちに、その男がそこを通ると、歌声がする。見ると髑髏(どくろ)が歌っている。髑髏が、どこへ行っても歌うというので、褒美目当てに殿様のところへ持っていくが、歌わない。殿様が男の首をはねると、髑髏は、殺された事情を述べ、敵(かたき)を討ったと喜ぶ。江戸後期の『黒甜鎖語(こくてんさご)』(1799)にも、秋田県地方の伝えがみえる。被害者の髑髏が殺人事件を暴くところに特色があり、類話は平安初期の『日本霊異記(にほんりょういき)』にも2例ある。道端にあった髑髏が、供養(くよう)してくれた人を、お礼にと大晦日(おおみそか)に家に招き、そこで殺されたことを告げ、肉親が犯人であることが知れる話である。
よく似た話は中国の唐代末期の『捜神記(そうじんき)』(一巻本)にもあるから、中国から伝来した昔話であろう。殺された人の死骸(しがい)や墓から生えた植物でつくった骨笛、骨と髪の毛のハープ、木笛などの楽器や、死者の霊魂が転生した鳥が事件を暴く話は、ヨーロッパを中心に世界各地に広まっており、グリム兄弟の昔話集にも骨笛の例がある。犯人は近親者や友人が多く、日本でも、竹笛や鳥の趣向の例は継子話(ままこばなし)として知られている。
[小島瓔]