エイヘンバウム(読み)えいへんばうむ(英語表記)Борис Михайлович Эйхенбаум/Boris Mihaylovich Eyhenbaum

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エイヘンバウム」の意味・わかりやすい解説

エイヘンバウム
えいへんばうむ
Борис Михайлович Эйхенбаум/Boris Mihaylovich Eyhenbaum
(1886―1959)

ソ連の文芸学者。1918年から49年までペテルブルグ大学講壇に立った。18年にオポヤーズに参加、フォルマリストを代表する理論家として活躍した。『ゴーゴリの「外套(がいとう)」はいかに作られたか』(1919)は、テキストの生地(きじ)そのものに着目して、従来の政治的、社会的な功利主義批評に挑戦する意義を担った。初期のトルストイ論は、芸術家と回心後の思想家という二分法を退け、あくまでも作品のスタイルの変遷、そこからくる危機ととらえようとする視点を示した。またレールモントフ論においては、その情動的な強度が、ロシアならびに西欧の詩人たちの既成の素材を借りて成り立つ折衷的なものであることを論証した。そのほか詩、散文の分野にわたってさまざまな示唆的な仕事を残したが、27年ごろから方向を転換、システムとしての作品の外側の「文学的環境」を重視するようになり、その視点からまた大部の『レフ・トルストイ 50~60年代』(1928~31)が書かれる。トルストイの思想の変遷を同時代の社会環境から綿密に検証するものであった。30年代に入り、スターリニズム体制の圧迫の強まるなかでさらに方向を転換、歴史的、伝記的な研究に赴かざるをえなくなる。しかしこの時期に携わったトルストイ、レールモントフ、ツルゲーネフレスコフなどの作品、全集校訂作業においても、いくつかの画期的な発見があり、多大な業績を残した。

小平 武]

『山田吉二郎訳『若きトルストイ』(1976・みすず書房)』『R・ヤコブソン他著、小平武他訳『ロシア・フォルマリズム文学論集1』(1971・せりか書房)』『シクロフスキー他著、新谷敬三郎他訳『ロシア・フォルマリズム論集』(1971・現代思潮社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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