日本大百科全書(ニッポニカ) 「エニシダ」の意味・わかりやすい解説
エニシダ
えにしだ / 金雀児
金雀枝
[学] Cytisus scoparius Link
マメ科(APG分類:マメ科)の常緑低木で、高さ1~2メートルになる。枝を多数分けて上部は弓状にしだれ、濃緑色で細い。葉は互生し、単葉または3出複葉で小葉は倒卵形ないし倒披針(とうひしん)形、長さ1~1.7センチメートル、全縁で毛がある。5月ごろ、葉の付け根に黄色で長さ約2.5センチメートルの蝶形花(ちょうけいか)が1、2個ずつ開く。萼(がく)は杯状で2裂し、旗弁(きべん)は楕円(だえん)形で大きく、先はへこむ。雄しべは10本で9本は下半分が癒着し、雌しべは1本。果実は長さ4~5センチメートルの平たい莢(さや)で両縁に毛がある。7~8月に黒く熟し、中に多数の種子があり、莢はねじれて裂ける。
地中海沿岸に分布し、ヨーロッパに広く野生化している。庭木、いけ花材料のほか砂防地植栽に使われる。枝葉にアルカロイドを含み、硫酸スパルテンの製造原料になり、不整脈や子宮収縮不全、子宮出血などに用いる。
[小林義雄 2019年10月18日]
栽培
北海道中部以南に植えられ、日当りのよい砂質壌土でよく育ち、乾燥に耐える。成長は速く、適度の剪定(せんてい)が必要で、病虫害は比較的少ない。繁殖は実生(みしょう)または挿木。実生して3年目には開花する。
[小林義雄 2019年10月18日]
種類
品種のホオベニエニシダcv. Andreanusは花が黄色で翼弁に赤色のぼかしがあり美しい。シロバナエニシダC. multiflorus (L'Hér. ex Aiton) Sweetはヨーロッパ南東部原産の高さ3~4メートルの落葉樹。5~6月に白色の花が開く。シロバナセッカエニシダは枝が石化(帯化)したもので、切り花や生け花に用いられる。
[小林義雄 2019年10月18日]
文化史
伊藤伊兵衛の『地錦抄附録(ちきんしょうふろく)』(1733)によると、日本には延宝(えんぽう)年間(1673~1681)に渡来したとある。書物に出るのは『増補地錦抄』(1710)が最初で、エニスタの名があがる。『地錦抄附録』にはエニスダと書かれ、のちにエニシダとなったが、その語源はラテン語のゲニスタgenistaで、オランダ読みのヘニスタから由来した。イギリスのプランタジネットplantagenets朝(1154~1399)は、エニシダを意味するラテン語のプランタ・ゲニスタplan ta genistaにちなむ。また、花や茎には興奮性のアルカロイド・スパルチンが含まれているが、イギリスではかつてつぼみや鞘(さや)を塩漬けにして食べたり、若芽をホップの代用にした。中世ヨーロッパの伝説では、魔女はエニシダでつくった箒(ほうき)にまたがって空中を飛ぶが、エニシダはヨーロッパでは、実用的な枝箒として使われていた。
[湯浅浩史 2019年10月18日]