エプーリス(読み)えぷーりすしにくしゅ(英語表記)Epulis

家庭医学館 「エプーリス」の解説

えぷーりすしにくしゅ【エプーリス(歯肉腫) Epulis】

[どんな病気か]
 エプーリスとは病名ではなく、外形からみた診断名です。歯肉(しにく)(歯ぐき)や歯根(しこん)周囲の歯根膜(しこんまく)、そして歯槽骨膜(しそうこつまく)などから発生する腫瘤(しゅりゅう)で、腫瘍(しゅよう)ではありません。
 病理組織学的に検査すると、炎症性のものから腫瘍性のものまでいろいろあり、炎症性、腫瘍性、その他の3つに分けられます。
 炎症性エプーリスには、肉芽腫性(にくげしゅせい)、線維性、末梢血管拡張性(まっしょうけっかんかくちょうせい)、骨形成性(こつけいせいせい)、セメント質形成性のエプーリスがあります。また腫瘍性エプーリスには、線維腫性(せんいしゅせい)、血管腫性(けっかんしゅせい)、骨腫性(こつしゅせい)、セメント質腫性のエプーリスがあります。
 その他のエプーリスには、巨細胞性、妊娠性、および新生児の口腔内(こうくうない)に現われる非常に珍しい先天性エプーリスがあります。
 エプーリスは、あくまで診断名ですから、口腔がんとの鑑別が重要になります。
 一見大きくて、急速な増大を示すものもありますが、ほとんどのものは境界がはっきりしてポリープ状であること、歯などがあたらないかぎり、腫瘤の表面潰瘍かいよう)をつくらないことなどの臨床的所見から、おおよその診断は可能です。
 といっても、万一のことがありますから、最終的には、切除した標本を病理検査することが必要です。
[原因]
 歯垢(しこう)(プラーク)や歯石しせき)その他の不適合歯科補綴物(ふてきごうしかほてつぶつ)(ブリッジ入れ歯など)による慢性刺激が原因として考えられます。
 妊娠性エプーリスは、妊娠初期から中期にかけてみられ、出産後は消失します。
 これについては、ホルモンをはじめいろいろな原因が考えられていますが、妊娠中よく歯をみがき、歯ぐきのマッサージをして口の中をきれいに保っていれば、ほとんど発生しません。
[症状]
 歯頸部(しけいぶ)の歯肉に有茎状(ゆうけいじょう)(ポリープ様)または分葉状(ぶんようじょう)の腫瘤としてみられます。
 表面の粘膜(ねんまく)はピンク色で平滑なものが多く、かたさもやわらかくて弾力性のあるものから、骨に近いかたさを示すものまでさまざまです。
 大きくなると、やわらかい腫瘤では、対合歯(たいごうし)または食べ物などと接触して出血をくり返し、表面にびらんや潰瘍を形成します。
 妊娠性エプーリスは、妊娠初期には末梢血管拡張性エプーリスとしてみられ、中期には肉芽腫性エプーリスのかたちをとり、末期には線維性エプーリスのかたちに変化するのが特徴です。
[治療]
 妊娠性エプーリスはようすをみることがありますが、その他のエプーリスは切除します。
 再発させないためには、歯根膜を含めて原因となっている歯を抜歯(ばっし)する必要があります。
 歯がしっかりしており、抜歯したくないと思ったら、再発することを覚悟したうえで、また、十分なブラッシングなど口腔ケアを行なうことを前提として、エプーリスだけの切除を行ないます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「エプーリス」の解説

エプーリス
Epulis
(歯と歯肉の病気)

どんな病気か

 歯肉にみられる良性の限局性腫瘤(しゅりゅう)をエプーリスといい、歯肉腫(しにくしゅ)と呼ぶこともあります。エプーリスの大部分は炎症性および反応性の腫瘤ですが、腫瘍性のものもあります。

 炎症性エプーリスには、肉芽腫性(にくげしゅせい)エプーリス、線維性エプーリス、血管腫性エプーリス、巨細胞性エプーリス、骨形成性エプーリスなどがあります。腫瘍性エプーリスには、線維腫(せんいしゅ)性エプーリス、骨形成性エプーリスがあり、そのほかに、特殊型として先天性エプーリスなどがあります。

原因は何か

 エプーリスは歯肉、歯槽骨(しそうこつ)歯槽骨膜(しそうこつまく)歯根膜(しこんまく)などから発育してきます。誘因としては、合っていない金属冠などの機械的刺激や、歯石などの炎症性刺激、ならびに卵胞ホルモンや黄体ホルモンなどの内分泌異常が関係すると考えられています。

症状の現れ方

 一般的に歯間部歯肉に腫瘤がみられ、接触痛や出血があります。20~30代の女性に多発し、妊婦にみられる妊娠性エプーリスもあります。

 エプーリスの形は、有茎性(ゆうけいせい)、半球状、結節状、分葉状とさまざまで、表面は平滑です。色調や硬さは種類によって異なり、発育はゆっくりで、腫瘤が大きくなるにつれ、歯が傾いたり、離れて開いたり、動くこともあります。

治療の方法

 歯肉や歯槽骨の一部を、骨膜とともにすべて外科的に切り取ります。原因除去のために、歯を抜くこともあります。また、妊娠性エプーリスについては、分娩後に小さくなったり、消えることもあるため、経過観察することも必要です。

伊藤 公一

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「エプーリス」の意味・わかりやすい解説

エプーリス
epulis

歯肉部に生じる良性で限局性の腫瘤状増殖物の総称。多くは炎症性,反応性の病変で,腫瘍性のものは少ない。歯肉,歯根膜,歯槽骨膜などの歯周組織に生じ,歯間乳頭部に好発する。通常有茎性で,発育は緩慢である。20~30歳代に多く,性別では女性に多く,男性の2~3倍を示す。発生の要因としては,局所的には歯石,歯の残根の鋭縁,不良補綴物などによる慢性的な刺激など,また全身的には体質や女性の内分泌異常もあげられている。病理組織学的には,肉芽腫性エプーリス,繊維性エプーリス,血管腫性エプーリス,繊維腫性エプーリス,骨形成性エプーリス,巨細胞エプーリスに分類される。このほか,妊娠時に生じる妊娠性エプーリス,また新生児にみられる先天性エプーリスがある。治療としては,歯槽骨膜を含めて,場合により歯とともに,外科的に切除する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エプーリス」の意味・わかりやすい解説

エプーリス
えぷーりす

歯肉腫

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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