日本大百科全書(ニッポニカ) 「エルナニ」の意味・わかりやすい解説
エルナニ
えるなに
Hernani
フランスの作家ユゴーの五幕韻文劇。1830年初演。もと貴族で山賊に身をやつす反徒エルナニと、貴族の娘で孤児のドニャ・ソルとの悲恋物語。恋敵(こいがたき)の1人だったスペイン王ドン・カルロスが皇帝即位をきっかけに仁慈を示して2人の結婚はいったん許されるが、ドン・リュイ・ゴメス老公爵(ドニャ・ソルの後見人)の横恋慕で心中に追い込まれる。ロマン派的主題と騎士道風モラルを柔軟な十二音綴詩句(アレクサンドラン)で華麗に展開して、国立劇場でのロマン派劇公認をかちとった。彼はこれに先だち『クロムウェル』序文で古典主義演劇批判と新演劇の展開を宣言したため、『エルナニ』初演は古典派、ロマン派の決戦の場となった。「エルナニ合戦」の名は後世、この種の演劇上の衝撃的事件を比喩(ひゆ)的にさすこともあるほど著名である。
[佐藤実枝]