エンデュランス(読み)えんでゅらんす(その他表記)Endurance

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンデュランス」の意味・わかりやすい解説

エンデュランス
えんでゅらんす
Endurance

エンデュランスとは、国際馬術連盟FEI公認の競技の一つで、ウマのスピードと耐久性を試すものである。

 その歴史は、1955年8月にアメリカのカリフォルニア州で行われたウェスタン・ステーツ・トレイル・ライド・100マイル・ワン・デイThe Western States Trail Ride 100 miles One Day(通称テヴィス・カップThe Tevis Cup Ride)を嚆矢(こうし)とする。かつてアメリカ西部のゴールド・ラッシュ時代、一攫千金(いっかくせんきん)を夢見た多くの開拓民が、シエラ・ネバダ山脈を越えて、カリフォルニアオーバンAuburnの町を目ざした。その同じルートのオーバン寄り100マイル(約160キロメートル)の山道を、1955年8月に5人のライダー(騎乗者)が、ほぼ一昼夜かけて駆け抜けたのである。テヴィス・カップという名称は、1959年に運輸送業界で西部の象徴ともいわれるウェル・ファルゴ社の経営者であるテヴィス家よりカップが寄贈されたことによる。なお、現在のテヴィス・カップのルートは、タホ湖の北の町ロビーパークRobie Parkからオーバンまでとなっている。

 その後、このライドをならってオーストラリアフランスで100マイル走が行われるようになり、現在では世界各地で競技会が開催されるに至っている。日本では1999年に公式競技となり、2000年から全日本選手権が行われている。

増井光子

競技内容

国際馬術連盟の2005年版規程によれば、エンデュランス競技を走行距離によって、以下の4区分のクラスに分けている。

(1)4スタークラス 1日に最低160キロメートルを走行する上級選手権Senior Championships、120キロメートルのジュニア選手権Junior Championships、ワールドカップ・ファイナルWorld Cup Finalsなどがある。

(2)3スタークラス 1日に120キロメートル以上もしくは1日に80キロメートル以上を2日以上走行する。

(2)2スタークラス 1日に80~119キロメートルもしくは1日に40~79キロメートルを2日以上走行する。

(4)1スタークラス 1日に40~79キロメートルを走行する。

 人馬は野外を走行し、よほどの荒天でもない限り競技は雨天でも決行される。馬術競技はどの種目でも、ウマの福祉が最優先されるが、エンデュランスでもウマの健康管理を司る獣医師の果たす役割は大きい。コースは数区間で構成され、一区間の長さは40キロメートル以内とし、各区間の終点では獣医検査が行われ、合格したウマだけが一定時間の休憩の後に次の区間に進むことができる。

 この競技はタイムレースであり、完走した人馬のなかから所要時間の短い順に順位が決まるが、早さを求めるあまりウマに過度の要求をしてはならない。ウマの福祉のために、競技馬の最大心拍数が設定され、一定時間内に定められた心拍数に下がらなければ失格となる。競技馬の安静時の心拍は通常1分間につき30台であるが、走行中はその速度に応じて心拍は上昇する。上昇した心拍を、到着後一定時間内(たいていは20~30分以内)に規定の数(56~64)にまで下げねばならない。そのため、単に早く走ればいいというものではない。鞭(むち)や拍車(はくしゃ)を使って馬を駆り立てることは禁じられている。

[増井光子]

装備と援助

装備については、乗馬帽は安全のため顎紐(あごひも)で固定できるものを使用する。エンデュランスでは長距離走を行い易い衣服であれば、特別の制約はないが、シャツは襟付きが求められる。

 また、コース上の定められた地点にクルーポイントが設けられ、そこで競技者は給水、馬具の整備などの援助を受けることができる。この給水地点は、おおむね10キロメートルごとに設けられる。それ以外の場所では、落馬・放馬のような場合を除き、いかなる援助も受けられない。エンデュランスは、いったんスタートしてしまえば、あとはすべて競技者が処理しなくてはならない。

[増井光子]

参加資格

ライダーは、満14歳以上であれば競技参加が可能である。競技馬は、FEI規定では6歳以上であり、選手権(上級選手権、世界選手権、大陸選手権など)では7歳以上である。日本の競走馬の年齢感覚からすると、ずいぶん年を重ねているように思われようが、競走馬が若すぎるのであり、馬の骨格が完成するには5年はかかる。あまりに若い馬はウルトラマラソン級のエンデュランスの負荷に耐えられない。馬の負担重量は、2スタークラスで70キログラム、3スタークラス以上では75キログラムである。

 ライダーもいきなり100マイル走には出られない。まず1スタークラスの40キロメートル走からスタートし、順次距離を伸ばしてゆく。エンデュランスのライセンスは、段階に応じて各種ある。エンデュランス発祥のライドであるテヴィス・カップでは、以前は参加はフリー(参加資格は問われない)だったが、2003年に崖地で夜間に滑落事故があったのを契機に、80キロメートル走を3回完走していることが義務づけられ、それが2006年には6回に増やされた。しかし馬の負担重量に制限はない。

[増井光子]

日本の状況

日本では1999年の公認以来まだ日も浅く、競技者も経験が浅い状況にあるので、安全のために、走行制限時間や条件などがFEI規定より緩やかな規約になっている。また、エンデュランス・ライダーになるためには、(1)トレーニングライド、(2)ノビスクラス、などの段階を経て進級していかねばならない。

(1)トレーニングライド 初めてエンデュランスに出場する人馬は、まず20キロメートル走から始め、そこを完走して講習を受け、C級資格をとり、40キロメートル走に進む。40キロメートル走を2回完走して講習を受け、B級資格をとって、60キロメートル走に進む。

(2)ノビスクラス 1回目の60キロメートル走に出場する競技者は、ノビスクラスである。そして60キロメートル走を2回完走してから80キロメートル走に進むことができる。

 競技馬の年齢は、40キロメートル以下のトレーニングライドでは4歳以上、60キロメートル以上では満5歳以上(2007年から6歳以上)とされるが、日本での規定は、FEIの国際規定にくらべると、流動的である。

 当初、日本のエンデュランス競技はもっぱら北海道で開催されていたが、しだいに人気を集め、発展している。2006年6月現在、北海道では十勝(とかち)・鹿追(しかおい)、津別(つべつ)、浜中(はまなか)、白滝(しらたき)、釧路(くしろ)、日高・浦河(うらかわ)、新冠(にいかっぷ)の7か所、本州では山梨・小淵沢(こぶちざわ)、群馬・軽井沢(かるいざわ)、長野・飯綱高原(いいづなこうげん)の3か所、計10か所で開催されている。エンデュランスでは競技馬の馬種を問わないので、アルパーサやトロッター、クォーターホース、アラブ、パルミノ、アイスランディック、クリオージョやこれらの混血馬などさまざまな種類のウマが参加する。また、ほかの公式馬術競技ではまず見られない日本在来の馬である木曽馬(きそうま)や北海道和種(道産子(どさんこ))もかなりの数が参加し、健闘している。

[増井光子]

『田中雅文著『完走することが勝つこと――エンデュランスライディング入門』(2003・北海道うまの道ネットワーク協会)』『増井光子著『60歳で夢を見つけた――動物園長、世界を駆ける』(2005・紀伊國屋書店)』『E・ソレル著、吉川晶造・鎌田博夫訳『乗馬の歴史――起源と馬術論の変遷』(2005・恒星社厚生閣)』『蓮見明美著『アラビアン・ホースに乗って――ふたりで挑んだ遙かなるテヴィス』(宝島社文庫)』

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