改訂新版 世界大百科事典 「オイコス」の意味・わかりやすい解説
オイコス
oikos
ギリシア語で家を意味し,さらに家に結合する人間の諸関係をも意味するようになった語。アリストテレスは《政治学》の中でポリスを〈村々の共同体(または結合体)〉,村を〈家々の共同体(または結合体)〉と定義し,家を夫婦,親子,主人と奴隷の三つの関係の複合したものと把握した。家は古代ギリシアを通じて,その政治的変化にもかかわらず変わることなく社会生活の最小単位として機能した。〈オイコスの人〉を原義とするオイケテスoikētēsはローマ人のファミリアfamiliaと同様に家族・世帯・奴隷をも意味した。ミュケナイ時代の家族は家父長制大家族であったらしい。ホメロスの詩の中のギリシア人の王たちの場合には,息子の嫁たちも,娘の夫たちも同じ館に住んでいた。ポリスの成立以後は単婚小家族が一般で,父の死による兄弟の相続は平等を原則としていたが,スパルタでは長子相続が古制であったらしい。オイコスとクレーロスを持つことが自由な市民の経済的独立の基礎であった。これによってオイコスの世代から世代への移行が可能となり,それが歴史の連続性の基礎であった。したがって家には祖先以来の墓地と祖先をまつる祭りが欠かすことのできない家族の義務であった。家には,ポリスに守護神があるように,家の守護神がまつってあり,〈中庭のゼウス〉と呼ばれる神像が立てられていた。家の成員になるとは,家の祭祀にあずかることを意味し,嫁が家に入る時に主婦は樫の実や干しブドウや干しイチジクを頭上からふりかけるのが例であり,奴隷を買ってきて家の中に入れる時も戸口で同じことをするのが例であった。この儀式によって嫁も奴隷もその家の人(オイケテス)になると考えられていた。一時的に家に滞在する客(クセノス)を歓待するのは家の良き習慣であった。家の人が殺された時は,古くは〈血の復讐〉によって報復するのは一定の近親範囲の義務と考えられていた。血縁ある幾つかの家が氏族(ゲンス)を成し,幾つかの氏族が胞族(フラトリア)を,幾つかの胞族が部族(フュレー)を,幾つかの部族がポリス市民団を構成していた。
→家
執筆者:太田 秀通
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報