観光地に客が集中し、公共交通の混雑やごみのポイ捨てなど環境や現地の生活に悪影響が出る現象。観光公害とも呼ばれる。世界各地で旅行者が増える背景には、新興国における中間層の台頭や格安航空会社(LCC)の広まりがある。世界遺産のイタリア北部ベネチアでは観光客が押し寄せて生活を脅かしており、国連教育科学文化機関(ユネスコ)は7月に存続が危ぶまれる「危機遺産」への指定を勧告した。(北京共同)
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(南 文枝 ライター/2019年)
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過度な観光客の増加に伴う渋滞や騒音、自然環境への悪影響などの弊害の総称。「over(許容範囲を超えた)」と「tourism(旅行)」を組み合わせた造語で、2016年ごろからアメリカで使われ始めた。日本では観光公害ともよばれる。オーバーツーリズムは大きく分けて、(1)住民の生活環境の悪化、(2)観光資源の劣化、(3)経済的な損失、という三つのマイナス効果を複合的にもたらす。(1)として、渋滞、事故、無断駐車、交通機関の混雑・遅延、ごみ投棄、騒音、トイレの不適切利用、民有地などへの侵入、治安悪化、(2)として自然破壊、景観悪化、落書きなどによる文化財損傷、(3)として観光地の魅力低下、観光客の満足度低下、踏み荒らしによる農作物被害、などの現象が起きている。古くからアンチツーリズム(反観光)やツーリズムフォビア(観光嫌悪)という概念はあったが、21世紀に入り、アジアなど新興国の中間所得層が海外旅行をするようになり、オーバーツーリズムは世界共通の課題となった。イギリスのオックスフォード大学出版局が2018年の「今年の言葉」候補に選び、世界的に広まった。
スペインのバルセロナでは住民の抗議デモが起き、イタリアのべネチアでは市外転居住民が続出し、クロアチアのドブロブニクでは旧市街地への入域制限、フィリピンのボラカイ島ではクルーズ船乗入れ規制の動きがでている。日本でも京都市、鎌倉市、岐阜県白川村などでオーバーツーリズムが社会問題化した。オーバーツーリズム対策には、観光客の入域制限や事前予約制などの規制、入域の有料化、公共交通機関における地域住民の優先利用、補助による観光関連施設の整備、観光税の導入などによる対策財源の確保、観光場所・季節・時間の分散化などがある。国際機関であるグローバル・サステイナブル・ツーリズム協議会(GSTC:Global Sustainable Tourism Council)は観光振興とオーバーツーリズム対策を両立させた「持続可能な観光」を実現するため、騒音、ごみ、交通の環境負荷などのGSTC基準を設定し、悪影響の最小化を目ざしている。
[矢野 武 2020年1月21日]
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