カイメン

改訂新版 世界大百科事典 「カイメン」の意味・わかりやすい解説

カイメン (海綿)
sponge

海綿動物門Poriferaに属する無脊椎動物の総称。体を構成している細胞の分化の程度が低く,真の組織や器官がまだ形成されておらず,そのうえ神経や筋肉もない系統学上もっとも原始的な後生動物である。系統進化上から後生動物と区別して側生動物ということもある。

 カイメンは他物に付着していて運動もしないので,1700年代には植物とされていたほどである。ごく少数の種類は淡水にすむが,大部分浅海に産し種類が多い。しかし,水深8000mの深海底からも特異な形をした種類が多く得られている。世界で約7000種,日本では現在750種ほどが知られているが,今後尋常海綿類の種類がかなり追加されるものと思われる。

体の形は壺状,樹枝状,塊状,平盤状などさまざまで,なかには形が一定していないものもある。色も白色,黄色,赤色,緑色,黒色と多種多様である。基本的な体型は壺状で,中央に胃腔gastral cavityという大きい空所があって,上端に口(出水孔)が開いている。体壁には無数の小さい穴(入水孔)が開いていて胃腔との間を溝道(みぞ)が連絡し,外界から胃腔内への水の通路になっている。体壁の厚いものは溝道がより複雑になっている。胃腔の内壁には1本の鞭毛をもった襟細胞choanocyteが密に並んでいて,鞭毛の運動によって水流を起こしたり,水と同時に入ってくる微細な食物をとらえる。そして余分な水は上端の口の大孔から出し,一定方向の循環が繰り返されている。

 襟細胞はカイメンの体の中ではもっともよく分化している細胞である。球状の細胞体の上に円筒形になった襟の部分があり,1本の鞭毛が細胞体から襟の中を通って外にのびている。食物粒子をとりこんだ襟細胞は,それを体内にある原始細胞および遊走細胞へ運んで,消化する。

 体表から胃腔へ通ずる水の通路,すなわち水溝の形式には簡単なものから複雑なものまであって,アスコン型サイコン型,リューコン型(ロイコン型)の順に複雑になっている。アスコン型asconoid typeは原始的で薄い体壁をもつ個体に見られる。小孔細胞porocyteと呼ばれる穴のあいた細胞が体壁を貫通していて,外界から直接水を導入する。襟細胞は胃腔内壁に並んでいる。サイコン型syconoid typeは体壁の厚いものに見られる。一定の間隔をおいて体壁が指状に突出して放射溝をつくり,その内壁に襟細胞が並び,胃腔に面した壁には存在しない。水は放射溝の小孔細胞から直接胃腔内に入る。リューコン型leuconoid typeも体壁が厚いものに見られる。襟細胞が半月状に並んでつくった鞭毛室が散在し,小孔から入った水は複雑に分岐した水溝を通ってそれぞれの鞭毛室に達し,それから共同の流出溝を通って胃腔に出る。

 体表面の皮層は扁平で多角形の扁平細胞pinacocyteでつくられ,その内側には中膠(ちゆうこう)mesogloeaという肉に相当する部分がある。中膠には骨をつくる生骨細胞,食物を消化吸収する変形細胞,精子や卵をつくる原生細胞などが含まれている。

炭酸カルシウムあるいはケイ酸質の骨片のみ,または海綿質繊維のみ,あるいはこの両方によって骨格をつくり,柔軟な体を支えている。骨格の形態はカイメンを分類するのに重要であって,三つの綱に分ける基準にされている。

 骨片の大きさは微小なものから長さ1mになるものもあり,形は単軸型,三軸型,四軸型,シグマ体など多種多様である。また骨片が融合して格子状の骨格をつくる場合もある。

カイメンは雌雄異体または同体で,生殖法には有性生殖と無性生殖の両方が見られる。また芽球gemmuleという無性個体がつくられることがある。無性生殖は母体から芽がでて大きくなり,個体を増大させる。有性生殖は原生細胞からつくられた精子と卵によるもので,精子は最初,襟細胞によって卵に近い位置まで運ばれるが,その際の襟細胞は襟と鞭毛を失っている。やがて精子は尾を失って肥大し,精子を運んだ細胞が卵と融合したのちに精子は卵と合一する。受精卵は卵割を行い,表面が繊毛で覆われた胞胚になると,親の体内から外にでて自由遊泳をする。こういう幼生には,中空幼生(アンフィブラストゥラamphiblastula)と中実幼生(パレンキムラparenchymula)との2種類がある。中空幼生は前端部で定着し,細胞層の一部が内部に陥入して原腸を形成する。中実幼生は前端部から付着して平らな形になると,周辺の細胞や中心の鞭毛の生えていない細胞も遊離し始め,これらが胃腔を形づくる。

 また多くの種類では季節を問わずに直径1mmほどの無性生殖を行う芽球を生ずる。この芽球は栄養物質を中に含んだ原始細胞の塊からつくられ,その外側を多くの芽球骨片が並んで内容物を保護している。芽球は低温や乾燥によく耐えることができ,親が死んでも環境がよくなると芽球口から内容物が流れ出して細胞の小さな塊になり,それから若いカイメンが成長していく。

カイメンのほとんどは他物に付着して生活している。潮間帯のように波が強くあたる場所ではダイダイイソカイメンクロイソカイメンのように岩の上にはりついているものが多い。深海産のホッスガイカイロウドウケツカイメンは束になった長い根毛で泥中に突き刺さっていたり,根毛が砂の塊をくるんで海底に立っているものもある。海藻や貝,カニなどの体上に付着するものもあるが,反対にカイメンの体内にフジツボやエビ,ゴカイの仲間が共生している場合もある。またClionaというカイメンの1種は,貝殻の中に穴を掘りながら成長していって貝殻の中をハチの巣のようにする。カイメンの寿命についてはよくわかっていないが,淡水カイメンは1年以内と考えられている。しかし,六放海綿類で直径が1mにもなるウマカイメンの1種は50年以上もたっているといわれる。

海綿動物は骨格の特徴から次の3綱に分けられる。

 (1)石灰海綿綱Calcareaは炭酸カルシウムの骨片が組み合わさって骨格をつくる類で体は一般に小さい。構造は簡単なものから複雑なものまである。オカダケツボカイメン,アブラツボロイカン,カゴアミカイメンなどがある。

 (2)六放海綿綱Hexactinellidaは骨格がケイ質で単軸,3軸,4軸などの主大骨片をもっているが,そのほかに六放星体,両盤体という特殊な形をした微小骨片を含んでいる。一般に大型で,深海産のものが多く,ホッスガイ,カイロウドウケツカイメンなどが含まれる。

 (3)尋常海綿綱Demospongiaeは石灰海綿類と六放海綿類以外のもの全部を含んでいる。骨格にはケイ質の主大骨片が組み合わさったもの,ケイ質骨片と海綿質とで形づくるもの,砂粒などを含んだ海綿質が骨格をつくって骨片をもたないものなどがある。イソカイメン,モクヨクカイメン淡水カイメンなどが含まれる。

カイメンはほとんど利用価値がなく,モクヨクカイメンだけが浴用,化粧用や掃除用に用いられる。フロリダでは養殖もされている。
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普及版 字通 「カイメン」の読み・字形・画数・意味

面】かい(くわい)めん

顔を洗う。〔太平御覧、二十に引く虞世南の史略〕北齊の盧士深の妻~才學り。春日桃を以て兒の面を(あら)ふ。呪(いの)りて曰く、紅を取り白を取り、兒の與(ため)に洗面して光を作(な)さん。~白を取り紅を取り、兒の與に洗面して容を作さんと。

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面】かいめん

顔を洗う。

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百科事典マイペディア 「カイメン」の意味・わかりやすい解説

カイメン(海綿)【カイメン】

多細胞動物のうちで最も下等な海綿動物の総称。一部の淡水産のものを除き,潮間帯〜深海の底に広く分布し,岩石,海藻,貝の上などに着生して移動できない。体内には炭酸カルシウムやケイ酸質の骨片が組み合わさっている。体壁にある無数の小孔から水がはいり,襟(えり)細胞のある胃腔を通って上端の口から出される。海岸に普通なダイダイイソカイメン,クロイソカイメン,化粧・浴用に用いるユアミカイメン,カイロウドウケツカイメンホッスガイなどが知られる。
→関連項目出芽

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世界大百科事典(旧版)内のカイメンの言及

【スポンジ】より

…もともと,海中動物であるカイメンを意味する言葉である。カイメンの多孔質の骨格は保水性があり,柔軟性,弾性に富むので,家庭用品として,食器,家具,車の洗浄用ブラシなどに用いられてきた。しかし,高分子工業の発達とともに,カイメンと同様な連続気泡を有し,柔軟性,弾性に富む合成発泡体が低コストで任意の大きさに均一に製造されるようになったため,現在ではほとんど合成品に置き換えられた。 代表的な高分子はポリウレタンであり,軟質ウレタンフォーム(軟質発泡ポリウレタン)として製造,使用される。…

※「カイメン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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