改訂新版 世界大百科事典 「カクストン」の意味・わかりやすい解説
カクストン
William Caxton
生没年:1422ころ-91
イギリス最初の印刷・出版業者。ケントのウェルドで生まれた(《トロイ歴史物語》序文)と自分で書いているが,ロチェスターの近傍とする説もある。1438年,後ロンドン市長に選ばれる織物商組合の有力者ラージRobert Largeに徒弟奉公。生年はその記録からの逆推算であり,厳密には1415-24年のどこか,と思われる。前半生は毛織物輸出商組合の商人として活躍,60年代初めには,その前進基地ブリュージュでイギリス商人コミュニティ統括の〈総督〉になっている。71-72年ケルンに滞在,活版印刷術を習得し,設備を購入,おそらく73年末ブリュージュで英語の最初の活字本とされる《トロイ歴史物語》を印刷発行。たぶん76年,ロンドンにもどりウェストミンスターに印刷・出版所を置く。彼は宮廷・貴族層をパトロンとし,《カンタベリー物語》《アーサー王の死》など写本市場での有力商品を活字化し,主として貴族の愛好品であった多くの中世末フランス語のロマンスをみずから翻訳・印刷・出版した。印刷の技術水準は高くないが,商人らしい堅実さでイギリスに活字本を定着させた。
執筆者:香内 三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報