活版印刷(読み)カッパンインサツ(その他表記)typographic printing
letterpress printing

デジタル大辞泉 「活版印刷」の意味・読み・例文・類語

かっぱん‐いんさつ〔クワツパン‐〕【活版印刷】

活版で印刷すること。また、その印刷物鉛版線画凸版・樹脂版などの印刷も含めていう。1445年ごろ、ドイツグーテンベルクが発明。活版刷り。

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精選版 日本国語大辞典 「活版印刷」の意味・読み・例文・類語

かっぱん‐いんさつクヮッパン‥【活版印刷】

  1. 〘 名詞 〙 活版で印刷すること。また、印刷したもの。
    1. [初出の実例]「一四三八 活版印刷の濫觴」(出典:商業史歌(1901)〈田口卯吉〉商業史歌年表)

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改訂新版 世界大百科事典 「活版印刷」の意味・わかりやすい解説

活版印刷 (かっぱんいんさつ)
typographic printing
letterpress printing

凸版式印刷の一種で,活字で組んだ版(活版)を用いるものをいう。それ以前の印刷版が木版のように1枚の板につくられたものであって,文字の抜き差しがむずかしかったのに対して,文字の組替えが自在にできるところから〈生きた版〉という意味で活版と名づけられた。J.グーテンベルクの発明以来,文字印刷の主流として,また印刷の主流として利用されてきたが,鉛合金の活字を使用するため工場衛生上に問題があること,版が重く印刷機の構造もがんじょうでなければならず,取扱いも不便,スピードも出ない(とくに組版においては,和文の活字の場合コンピューターと結びつけて自動化しても毎分120本くらいを組むのが限度である)こと,そしてこの分野における若年労働者の不足もあって,写真植字法の進歩とともにその地位を譲りつつある。将来は,ごく上等の書籍のほか名刺,便箋,挨拶状などが,その特徴を発揮する分野となろう。

活版印刷は,活字の製造,文選,植字,印刷という工程で行われる。

(1)活字の製造 書体デザインから金属製の文字パターンをつくり,これを母型彫刻機にかけて縮小彫刻し,文字部分を黄銅(シンチュウ)材に精密に彫りくぼめた母型をつくる。この母型を活字鋳造機にセットし,溶融した活字合金を注入して活字を製造する。つづいて同じサイズ,同じ文字の活字を数十本ずつ活字ケースに入れ使用頻度別に配列しておく。

(2)文選 原稿を見ながら活字ケースから必要な活字をとり出して箱の中に入れる作業をいう。日本や中国のように文字の多い国で組版に先だって行われる。すなわち,欧文のようにアルファベット活字を組むには,活字ケースから必要な文字の活字を拾いながら植字用ステッキcomposing stickと呼ばれる盆に組んでいくが,和文の文字は,その数が非常に多く,普通の印刷物に用いられている文字だけでも5000以上ある。このような多数の中から能率よく活字を選び出すには,工程を二つに分け,最初に活字を選び出しておき,つぎに組むという分業が適している。活字ケースは一般にすだれケースという1字ずつ正確に並べた形のものを用い,部首別と頻度にしたがって配列した活字を小さい箱(文選箱)に拾い集める。このときは句読点は拾わない。また拾組みと称して欧文のように活字を拾うと同時に組む方法を採用しているところもある(たとえば新聞社)。

(3)植字 文選作業で拾った活字をもとに1ページの版に組む作業。文選作業場からは活字を整理して収容した文選箱と原稿および割付け紙が送られてくる。作業者は割付け紙の指示にしたがって,きめられた面積の中に,活字,余白を作るための込物,行間をあけるためのインテルなどを並べていく。このとき使用する盆はゲラと呼ばれ,作業者は植字用ステッキに2,3行分の活字とインテルを並べたところで立てかけたゲラの下方から積みあげていく。縦組みでも横組みでも,ゲラに並べるときは各行が水平となる。文選作業で拾っていない字,たとえばサイズの違う見出し文字,句読点,挿絵の線画凸版や写真版,表組みにおける罫の作成はもちろん,行間,段落,ノンブル(ページ数)などもすべてこの段階で組み入れる。欧文では,2枚の活字ケース(上方に大文字,下方に小文字を入れる)を植字台に並べ,植字用ステッキに活字を拾いながら,込物,インテルを組みこみ,文選と植字作業を同時に行う。いわゆる拾組みと呼ばれるもので,1ページにまとめるときは同一の作業者が行う。和文においては拾組みは,新聞や辞書の作業に棒組み(ページには関係なく一定の字詰・行間で連続して組むこと)として利用され,各記事ごとあるいは各見出し語ごとに拾組みしたものを,何回も校正したのち別の作業者がまとめ組み(大組みともいう)をする。植字によって組みあがったものは組版と呼ばれ,結束糸で周囲をしばってある(〈組版〉の語は,また文選,植字の2作業のうち,後者を指す場合,両方の作業を指す場合もある)。

(4)印刷 このようにしてページ単位にまとまると簡単な印刷機(校正機)で校正刷りをつくる。校了になったページは,8ページ,16ページというように集め,活版印刷機に組みつけて印刷する。次いで,たとえば8ページ分を組みつけて印刷(表裏で16ページ)したものは3回,16ページ分組みつけて印刷(表裏で32ページ)したものは4回折っていわゆる折丁(おりちよう)(本を構成する一まとまりの単位)を作り,製本工程にまわす。印刷に用いる版は,少部数で重版の必要のない場合は組版を直接利用するのがふつうで,これを原版刷りという。一方,大量部数のものや重版の見こまれるもの,あるいは輪転機にかけるものは,原版からいったん紙型をとり,これに鉛合金を流しこんで複製の鉛版(輪転機にかけるものは丸鉛版,そうでないものは平鉛版)をつくって印刷に供する。印刷あるいは紙型をとった後は,できるだけ早く版をこわし(解版),小さい本文用活字は全部加熱して溶かしてしまうが,その他の材料は再度使用する。鉛版を使って印刷する場合,一部の誤りを訂正するには,その部分をくり抜いて別の活字あるいは小鉛版などをはめこむ。これを象嵌(ぞうがん)といい,重版の場合の訂正に用いられる。

文字を印刷するには,活字によるのが最も美しい印刷物を得られる。しかし活版印刷機のスピードが遅いこと,あるいは版の重量の大きいこともあって,印刷はオフセット印刷にする場合が多くなってきた。活版を組むまでは通常のとおりにし,校正が終わったら,きれいな紙に刷りとり(これを清刷りという),清刷りを写真に撮ってオフセット用の平版とし,オフセット印刷機で印刷する。このような活字とオフセット印刷の長所をあわせて,細字の辞典類を印刷することもある。
印刷
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「活版印刷」の意味・わかりやすい解説

活版印刷
かっぱんいんさつ
typographic printing
letterpress printing

活字を使い、文字を主体とする凸版印刷で、グーテンベルクの発明以来、書籍、雑誌、新聞などの印刷の主流をなしてきた。印刷物の格調の高さ、読みやすさ、美しさなどの点で、平版による文字印刷をしのぐが、製版の作業能率、生産費その他の点から、1980年ごろより写真・電子技術を用いるオフセット印刷にとってかわられた。

 活版の組版では、まず必要な活字を集める(文選(ぶんせん))、集めた活字を原稿に従って配列し、行間・字間を整えて配置する(植字)、大部数の印刷には複製版をつくる、の工程がある。活字は総数4万種以上あったといわれるが、普通の印刷では6000~7000種程度であった。これを活字ケースに収め、ケース台に置く。活字の配列は、音別分類もあるが、普通は部首別である。使用頻度のもっとも多い活字のケースを大出張(おおしゅっちょう)とよび、もっとも採字しやすい場所に置く。次に多いものを小(こ)出張とよび、その近くに置く。そのほか、外字(がいじ)(使用頻度の少ない文字)、平仮名片仮名、数字のケースもある。文選は、活字ケースから選んだ活字を浅い文選箱に入れる作業である。植字作業は、文選した活字に句読点、ルビ(振り仮名用活字)、記号、罫線(けいせん)を加え、指定された体裁に組み込む。字間にスペースspace、行間にインテルinterline leadsを入れて読みやすくする。また、版の空白部を埋めるため、クワタquadrat、ジョスjustifier、フォルマートFormatstegを使う。クワタは空白の行や行末に使い、ジョスはさらに大きい、フォルマートはいっそう大きい空白部を埋めるのに用いる。これらは印刷時にインキがつかないよう背を低くしてある。これらをステッキcomposing stick(小さな植字箱)に入れて整理し、ゲラに移し1ページにまとめる。ゲラは組版を入れる薄い箱で、校正刷りや少部数の印刷はゲラに組んだまま行う。英語のgalleyの訛(なま)ったことばで、校正刷りをゲラ刷り、あるいはゲラとよぶことがある。校正刷りを原稿と照合して正しく訂正し、正しい活字と差し替えたのち本印刷にかかる。大部数の印刷では複製版をつくる。少部数の印刷では、活字組版を印刷機に取り付けて直接印刷する。新聞印刷では、活字→紙型→丸鉛版→輪転機印刷の方式が主流であったが、1980年ごろからコンピュータ植字、オフセット印刷に移行した。

[平石文雄・山本隆太郎]

『川田久長著『活版印刷史』(1981・印刷学会出版部)』『青山敦夫著『活版印刷紀行 キリシタン印刷街道』(1999・印刷学会出版部)』


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百科事典マイペディア 「活版印刷」の意味・わかりやすい解説

活版印刷【かっぱんいんさつ】

凸版式印刷の一種で,活字で組んだ版による印刷。組んだ版で直接刷る場合もあるが,大量に印刷する際は紙型をとり,これから鉛版やプラスチック版を造って印刷機にかける。15世紀に発明され,長く印刷の主流を占めてきたが,鉛合金の使用による衛生上の問題や,版が重く取扱いが不便なこと,スピードも遅い等の理由により,現在では写真植字印刷(オフセット印刷)に地位を譲っている。
→関連項目印刷業円圧式印刷機カクストン版貸本屋活字書体罫線(印刷)校正孔版印刷佐久間貞一出版植字製版凸版文選本木昌造

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図書館情報学用語辞典 第5版 「活版印刷」の解説

活版印刷

活字を組んだ版を使って印刷する凸版印刷の一種.広義には,活字版を複製して作った鉛版や電鋳版などを使って印刷することを含む.この技法は,西洋では15世紀の中頃にドイツ人グーテンベルクが開発し,出版物の主要な印刷方式となった.日本では本木昌三(1824-1875)が明治初期に上海美華書館のガンブル(William Gamble 1830-1886)から活字鋳造などの方法について指導を受け,近代印刷の基礎を築いた.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「活版印刷」の意味・わかりやすい解説

活版印刷
かっぱんいんさつ
typography

凸版印刷の一種。活字を使用し,さらに線画,網版などを同一版上につけて行う場合も包括されている。活版の意味は,途中訂正のある場合はその文字部分だけを自由に抜替えて直す (差替えという) ことができる活字 (活動できる字) を使用するところからきたもので,書籍,新聞,雑誌などがこの方式で印刷されている。溶融された合金を母型に流し込んでつくる鋳造活字を用いるためホットタイプと称し,写真の種版から文字を焼付けていく方法 (コールドタイプ) と対称している。現在はコールドタイプがほぼ主流となってきており,活版印刷は特別な場合を除いてあまり用いられなくなっている。

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世界大百科事典(旧版)内の活版印刷の言及

【印刷】より

…伝播の経路は不明であるが,ヨーロッパの木版印刷術が中国に起源を持つことは確実であろう。
[活版印刷の誕生]
 ヨーロッパに活字印刷(活版印刷)が始まったのは15世紀半ばであるが,その最初の考案者が誰であったかについては異説がある。その中で有力なのはオランダ人コステルJ.Costerとドイツ人グーテンベルクJ.Gutenbergをあげる説である。…

【活字】より

…活版印刷において文字の印刷に用いる柱状のもので,頂面に1字ずつ凸状に刻んである。粘土に文字を彫って焼成した活字,木製の活字も利用されたが,現在では活字合金を用いた金属製のものが用いられている。…

【大日本印刷[株]】より

…なお,1935年まで使われた秀英舎の社名は〈英国より秀でるように事業を伸ばせ〉という意味で勝海舟が名づけたものである。秀英舎は,明治の三大名著の一つといわれる中村正直の《西国立志編》の再版の際に《改正西国立志編》として,それまでの木版に代えて日本で初めて活版印刷を行った。新聞,雑誌などの活版印刷を中心に,明治,大正の両時代を通して発展したが,1928年には日本で初めて本格的グラビア印刷を開始するなど印刷技術の高度化も進めて,総合印刷会社になった。…

【凸版】より

…凸版は,印判の例を見てもたやすく理解できるように,画線の面が非画線の面より高く,この間の高低差を利用して画線面のみにインキをつけて印刷するもので,これには非常に多くの種類がある。最も代表的なものは活版印刷で用いられる活版で,このほか,線画を印刷するために線画部分のみを凸にした線画凸版,写真など濃淡の階調のあるものを印刷するため,濃淡を凸状の点(網点という)の大小におきかえた写真版(網凸版),写真版の一種で,原画の白色部を強調するため白色部の網点を取り除いたハイライト版,同じく写真版の一種で,カラー印刷に用いる原色版などがこれに属する。 印刷インキを版面に選択付着させる平版や,不要のインキを版面から除去してから印刷する凹版などと異なり,凸版では,版面へのインキの付着は簡単で,このため印刷中に起こりうる画像のゆがみがなく安定した印刷が可能であり,また大部数を印刷する場合にも適している。…

※「活版印刷」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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