改訂新版 世界大百科事典 「カトリック政党」の意味・わかりやすい解説
カトリック政党 (カトリックせいとう)
何らかの意味でカトリシズムを標榜する政党。同じキリスト教政党でもプロテスタント政党はほとんど見当たらないのに対し,カトリック政党は広く見受けられる。これはカトリシズムがバチカンを中心とした国際的な組織であり,それぞれの国の政治勢力から自立して政治運動を展開しやすいことによるものであろう。
三つの類型
カトリック政党は歴史的にだいたい三つの類型に分けることができる。その第1は19世紀の中ごろに出現したもので,自由主義に対するたたかいの組織であった。自由主義はどの国でも反教権主義的な性格をもち,カトリシズムのもっていた特権を剝奪しようとしていたため,こうした自由主義とたたかうために出現してきた。代表的なものにベルギーのカトリック党Parti Catholiqueがある。それ以外にオーストリアにもあったが,〈カトリック教会の長女〉といわれるフランスでは成立しなかった。またイタリアではバチカンがカトリシズムの政治参加を禁止したため,カトリック政党は生まれてこなかった。イタリアの統一国家は教会領を没収する形で成立しており,バチカンはこの統一国家とたたかうために,カトリック政党という形で統一国家の中に入ってたたかうよりも,外からたたかう方を選んだのである。同じころ統一国家が成立したドイツでは,中央党Deutsche Zentrumsparteiというカトリック政党が生まれた。この政党も自由主義に対するたたかいのための組織であったが,同時に,ドイツの統一国家がプロテスタント系の勢力によって実現されたため,そのプロテスタント系の勢力によるカトリシズムへの圧迫に対抗するという面ももっていた。
第2のカトリック政党は19世紀末に出現してきたもので,本来的な意味でのキリスト教民主主義政党であった。これは近代社会のもっているいろいろな矛盾に対して,キリスト教の立場から取り組んでゆこうというものであったが,オーストリアのキリスト教社会党Christlichsoziale Parteiを除けばほとんど成功していない。
第3のカトリック政党は第2次大戦後出現してきた政党で,一般にキリスト教民主主義政党と呼ばれており,事実党名にもキリスト教民主主義という形容詞をつけているものが多いが,その性格は第2のカトリック政党とはかなり異なっている。それは一面ではキリスト教民主主義的な性格をもちながら,もう一面では保守党という性格をもつものである。
カトリック教会や信者との関係
カトリック政党の場合,カトリック教会やカトリック信者との関係がいつも問題となる。まずカトリック教会との関係からみると,しばしばカトリック政党はカトリック教会の〈俗界における手足〉であるといわれる。しかしカトリック教会とカトリック政党との関係は,国によって,また同じ国でも時代によってかなり異なる。一方では〈教会の権威から出る指示に従う〉としているものもあれば(オランダのカトリック人民党Katholieke Volkepartijの1945年の綱領),他方では非宗派性を強調して,教会からの自立をうたっているものもある。現在ではカトリック教会自身の姿勢がしだいに非政治的なものとなってきており,その意味でカトリック政党とカトリック教会との関係はますます希薄化しているといえよう。
一方カトリック信者との関係をみると,まず信者のすべてがカトリック政党の支持者というわけではない。カトリック教会に登録しているという形式的な意味でのカトリック信者の中には,必ずしも信仰に忠実でないものもいる。とくに戦後の世俗化の傾向はそうした実質的に忠実でない信者をますます増加させている。その限りにおいて,カトリック信者でカトリック政党を支持するものの割合はしだいに低下してきているのが実情である。他方カトリック信者以外にもカトリック政党を支持するものがかなりいる。この傾向はカトリック政党の第3の段階になって現れてきたもので,カトリック政党が保守党という性格をもつようになって,実質的な意味での信者でないものやプロテスタント信者などもカトリック政党を支持するようになってきたからである。1980年代半ばの西ドイツのキリスト教民主・社会同盟やイタリアのキリスト教民主党Democrazia Cristianaは戦前のカトリック政党と比べてその得票率を倍増させたが,それもこのような信者でないものの支持を得たためである。カトリック政党とカトリック信者との関係も,以上の二重の意味で希薄化しているのが現状である。とすればカトリック政党とカトリック教会との関係の希薄化とあわせて,やがてカトリック政党という表現自身がほとんど意味をもたなくなる時代がやってくるとみることもできよう。
→キリスト教民主主義政党
執筆者:西川 知一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報