18世紀イタリアの画家。本名はジョバンニ・アントニオ・カナルGiovanni Antonio Canal。10月28日ベネチアに生まれ、1768年4月20日同地で没した。父ベルナルド・カナルBernard Canal(1664―1744)は芝居の背景画家であり、その手伝いをした記録が1716年から残っている。1719年ローマ訪問後、1720年ベネチアの画家組合に登録、年代の確かな最初の作品は1722年の『墓碑』連作画である。オランダ人のバンビテッリVanvitelli(本名Gaspar van Wittel。1652/1653―1736)やカルレバリスLuca Carlevaris(1663―1730)などから影響を受け、4枚のベネチア景観図(1725~1726)をルッカのステファノ・コンティStefano Conti(生没年不詳)のために描き、これ以後ベドゥータ(都市の眺望画)の画家として有名になる。『石屋の作業場』(1726~1730年ころ。ロンドン・ナショナル・ギャラリー)などの作品には自由な筆致と光と影の微妙なコントラストがみられる。カメラ・オブスキュラを使い写実的な実景画を多数描いただけでなく、現実には存在しない配置の絵(カプリッチ)も制作している。後のイギリス領事ジョセフ・スミスJoseph Smith(1682―1770)の知遇を得、1746年以後たびたびイギリスを訪れて風景画を描いた。1763年アカデミー会員となる。甥(おい)のベロット(通称は同じカナレット)やグアルディなどに強い影響を与えた。
[篠塚二三男]
イタリアの風景画家。本名カナルGiovanni Antonio Canal。ベネチアに生まれ,生涯のほとんどを同地ですごす。父親にならって舞台背景の画家として出発するが,1720年ころから,当時ローマとベネチアで台頭した新分野,〈ベドゥーテvedute(都市景観図)〉の画家として活動,多大な成功を収めた。正確な遠近法,綿密な細部描写,光や空気の効果に対する鋭敏な感覚をもって描かれた数多いベネチア風景は,写真的な迫真性を特徴とし,清朗華麗なこの都市の雰囲気をよくとらえている。カナレットのベネチア風景は,外国人旅行者,とりわけ領事スミスJoseph Smith(1682-1770)をはじめとするイギリス人に愛好され,現在もイギリスに多数の作品が伝えられている。画家自身も46-56年に3回にわたってイギリスを訪れた。甥ベロットBernardo Bellotto(1720-80)も都市景観図の画家として名高く,通称で同じくカナレットと呼ばれた。ベロットは47年にベネチアを去ってドレスデンに赴き,ウィーン,ミュンヘンを経て67年にワルシャワに定住,いずれの地でも王侯の愛顧をうけ,その都市の景観を描いている。
執筆者:高橋 裕子
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…バロック美術
【18~19世紀】
18世紀は,ベネチアが,印象主義の真の祖とも呼びうる〈ベドゥータveduta(眺望画)〉によって,現代を予告している。カナレット,F.グアルディは,外光の描写を初めて実現した。また,ローマでは建築家G.B.ピラネージが古代ローマの遺跡の版画集を出版し,新古典主義に大きな刺激を与えた。…
…ジャンル的には,とくにベネチア派独自のものとして街景画(ベドゥータveduta)と肖像画をあげることができよう。ヤコポ・ベリーニ以来の人物より環境空間を重視する傾向は,一方ではジョバンニ・ベリーニ,ジョルジョーネ,初期のティツィアーノという抒情的な理想郷的風景表現の系譜となり,他方でジェンティーレ・ベリーニやカルパッチョから18世紀のカナレット,ベロットに至る都市空間を明晰な遠近法で再現する街景画の系譜となって,近代的風景画の中に流れ込んでいく(この中でグアルディは街景画を非現実的な詩的幻想に転じたことで異色の存在である)。一方,肖像画は,ジョバンニ・ベリーニやアントネロ・ダ・メッシナからロット,ティツィアーノ,ティントレットに至る伝統が,濃密な生動感と鋭敏な精神性をたたえた近代的肖像画の源泉として輝かしい光彩を放っている。…
※「カナレット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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