ベネチア派(読み)べねちあは(英語表記)scuola veneziana

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベネチア派」の意味・わかりやすい解説

ベネチア派
べねちあは
scuola veneziana

イタリアの都市ベネチアを中心に栄えた美術の流派。とくに15世紀後半から16世紀、および18世紀に著しい展開をみせた絵画に限定して用いられることが多い。描線に対する関心の強い知性的なフィレンツェ派に比べ、ベネチア派は色彩に重点を置き、感覚的、官能的な美を追求した。ベネチアの美術の出発点は11世紀に再建されたサン・マルコ大聖堂とその内部を飾るモザイクであった。このビザンティン的な装飾性と北からのゴシック様式とは、ベネチアの地に深く浸透した。そのためトスカナに生まれたルネサンス様式の受け入れが、イタリアのほかの地方に比べ、つねにもっとも後れをとった。ジョットの偉大な革新に呼応するような画家はまったく現れず、15世紀に入っても、ファブリアーノやピサネッロらの外来の美術家が活躍していた。この世紀のなかばになってようやくビバリーニVivarini〔アントニオ(1418/1420―1476/1484)、バルトロメオ(1432―1491以後)、アルビーゼ(1445/1446―1503/1505)〕とベッリーニ〔ヤコポ、ジェンティーレジョバンニ〕の二つの画家一族がベネチア派絵画の発展の基礎をつくった。とくにジョバンニ・ベッリーニはテンペラ画から油彩画への過渡期に活躍し、暖色系の色彩を用いて形態そのものをつくりだし、ベネチア派の基本的特色を確立した。この時期にはカルパッチョ、アントネッロ・ダ・メッシーナ(シチリア出身)、建築家のマウロ・コドゥッチMauro Coducci(1440―1504)らも活躍している。16世紀にはジョルジョーネが自然と密着した詩情あふれる叙情性を画面に導入し、ティツィアーノは官能的な色彩からドラマチックな光の効果に至る幅の広い様式展開をみせ、続いてピオンボ(ローマで活躍)、ロットティントレットベロネーゼなどが輩出しベネチア派の黄金時代を迎えた。建築ではパッラディオが目覚ましい活躍を示した。17世紀は建築家のロンゲーナBaldassare Longhena(1598―1682)を除くと概して停滞に終わったが、18世紀にはピアッツェッタ、ティエポロカナレット、グァルディ、ロンギなどの画家が現れ、ベネチア派の最後の光芒(こうぼう)がみられた。

[篠塚二三男]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベネチア派」の意味・わかりやすい解説

ベネチア派
ベネチアは
Scuola Veneziana

イタリア北東部の商業都市ベネチアを中心に,15世紀後半から 16世紀にかけて活躍した美術の流派。絵画,彫刻,建築の各分野でそれぞれ共通したベネチア的性格が見出されるが,一般には主として絵画の流派をさす。フィレンツェ派の造形的な形態主義に対して,絵画的な色彩主義を特色とする。アドリア海貿易による富裕なこの都市の現世的で享楽的な雰囲気も,この画派の性格形成に大きく参与している。その地理的,歴史的環境から,北方のドイツやフランドルとの相互影響が強い反面,東方オリエント諸国との美術交流も古くから活発であった。これらの多様式を融合し,重厚,華麗な色彩主義によるこの地独特の様式を確立したのがベリーニ一族とムラノ島のビバリーニ一族であったが,特に前者の果した役割が大きい。まずヤコポ・ベリーニは,北方ゴシック様式の帰依者ファブリアーノやピサネロらの影響を大きく受け,それと従来この地に支配的な東方ビザンチン様式との融合をはかった。彼の息子ジェンティーレとジョバンニも,父の業績を受継ぎ,よく発展させて,明朗で華麗な色彩主義の方向を推し進める。そして前者の門下からカルパッチオが,後者の門下からジョルジョーネ,ティツィアーノ,パルマ・ベッキオ,ピオンボらが輩出し,ここに 15世紀後半から 16世紀にかけての同派の最盛期を迎える。この間,ヤコポの女婿マンテーニャやムラノ派のクリベリやシチリア島メッシナ出身のアントネロ・ダ・メッシナらの同派への寄与も見逃せない。さらに,ティツィアーノのあとをうけたティントレットや P.ベロネーゼらの活躍は同派の爛熟期をもたらし,16世紀後半のイタリア絵画活動の主導的地位を決定づけた。しかも,彼らの長い絵画活動は,その晩年には,それぞれマニエリスムやプロト・バロックの画風をみせ,同時代の作家に大きな影響を与えている。 17~18世紀には,同派から大壁画家ティエポロおよび風景画家のカナレット,グァルディ,ロンギらが出て活躍し,そのすぐれた伝統の発揮がみられた。

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