日本大百科全書(ニッポニカ) 「カノコソウ」の意味・わかりやすい解説
カノコソウ
かのこそう / 鹿子草
[学] Valeriana fauriei Briq.
オミナエシ科(APG分類:スイカズラ科)の多年草。山地のやや湿った所に生え、栽培もされる。東アジアに広く分布し、日本では北海道から九州に生える。茎は直立し、高さ30~80センチメートル、葉は対生し、7枚の羽片に深裂し、羽片には粗い鋸歯(きょし)がある。5~7月に茎の先端に集散状に淡紅色の多数の小花を開く。花冠は細長い筒状で片側はやや膨れ、先端は5裂し、雄しべ3本は花外に突き出る。果実は披針(ひしん)形で長さ約4ミリメートル、その上部に冠毛状の萼(がく)がある。地下の根茎から走出枝を出して繁殖する。根茎は太さ約1センチメートル、長さ1.5センチメートルで、長さ約20センチメートルの細根を多数つける。この地下部を薬用とする。それをカノコソウ、纈草根(けっそうこん)、吉草根(きっそうこん)と称する。ケッソウコンと発音するのが正しいが、最近ではキッソウコンが普通になった。精油を含有し、鎮静剤として用いる。ヨーロッパではセイヨウカノコソウV. officinalis L.の地下部をワレリアナ根と称して、紀元前から利尿、鎮痛、通経剤として使用していたが、現在よく使われている神経症状、たとえば、てんかんなどの治療法は18世紀中期以後に開発され、その経験からカノコソウの利用が始まった。
カノコソウに類似したツルカノコソウV. flaccidissima Maxim.は茎の基部から細長い走出枝を出し地上をはって繁殖する。葉の羽片は卵円形で波状の鈍歯があり、雄しべは花外に突き出ない。茎の高さは20~40センチメートルで軟弱である。これは薬用にしない。本州、四国、九州の山地の木陰に生える。台湾、中国にも分布する。
[長沢元夫 2021年12月14日]