景気循環論(読み)けいきじゅんかんろん(その他表記)theory of business cycle

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「景気循環論」の意味・わかりやすい解説

景気循環論
けいきじゅんかんろん
theory of business cycle

景気循環現象の発生要因を明らかにし,それら要因の組み合わせによって循環現象を考察する経済学の一分野。景気の問題が経済学史上初めて激しい経済学議論の対象となったのは,ナポレオン戦争後の過渡的恐慌の性格をめぐって,セーの法則販路説)をとるデービッド・リカード,ジャン=バティストセーらが一般的過剰生産の不可能性を説き,他方トマス・ロバート・マルサスらがこれを否定して可能性を主張したときである。1825年から資本主義の周期的恐慌(景気循環)が始まるが,この頃までにセーの法則が正統説となっており,まだ周期性については論じられていなかった。ジョン・スチュアート・ミルの『経済学原理』(1848)では景気循環(当時は商業循環,信用循環,商業恐慌ないし信用恐慌の循環性というかたちでとらえられていた)問題も取り上げられたが,周期的恐慌ないし景気循環を資本主義経済の本質的属性とみなした最初の経済学者はカルル・ハインリヒ・マルクスである。しかし,景気循環分析の始祖と通常考えられているのは景気の中期波動(主循環)の発見者ジョゼフ・C.ジュグラー(『フランス,イギリスおよびアメリカにおける商業恐慌とその周期的再発』〈1862〉)で,この景気波動は彼の名にちなんでジュグラー・サイクルと呼ばれる。1910年代になると限界革命の影響を受けた若い経済学者の間で景気現象が注目され始め,ジョーゼフ・アロイス・シュンペーターの新機軸説(『景気循環論』〈1939〉),ラルフ・ホートリーの貨幣的景気理論,アーサー・C.ピグーらの心理説,J.ホブソン,マルクス経済学者らの過少消費説,ルートウィヒ・エドラー・フォン・ミーゼスやフリードリヒ・アウグスト・フォン・ハイエクらの過剰投資説など,景気循環の原因についてさまざまな説が唱えられた。1930年代以降はジョン・メイナード・ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)が決定的影響を与え,さらに景気循環の動学的分析の手法を確立した R.フリッシュやクヌート・ウィクセルに始まる北欧学派の貢献などをも媒介にして,ジョン・R.ヒックス,ポール・サミュエルソンらのケインズ学派投資関数消費関数を中心とする景気循環のモデルを展開。乗数効果(投資の所得造出効果)と加速度原理(所得の投資誘発効果)の相互作用から景気現象を説明するモデルなどが第2次世界大戦後多数つくられている。特に投資関数の非線形性を強調するモデルを用いるものは非線形景気循環論といわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の景気循環論の言及

【シュンペーター】より

…日本の中山伊知郎と東畑精一はこのとき彼に師事している。 32年母と妻とを失った彼は,ハーバード大学の招聘(しようへい)をうけてアメリカに渡り,前記《経済発展の理論》を実証的に展開した畢生の大著《景気循環論Business Cycles》(1939)の完成に没頭した。主著の一つである本書はその副題の示すとおり,〈資本主義過程の理論的・歴史的・統計的分析〉であり,彼の社会学的諸研究(《租税国家の危機》(1918),《帝国主義の社会学》(1918‐19),《社会階級論》(1927)など)は,すべてこの主題のため,もっぱら制度に関する分析用具を用意することにあった。…

【ヒックス】より

…論文《ケインズ氏と一般理論》(1937)でいわゆるIS‐LM曲線を提唱したが,これはケインズ理論の核心を表現しえたものとして学界に受け入れられ,今日のマクロ経済分析の基本的道具の一つとなっている。IS‐LMの静学的立場は《景気循環論》(1950)において,加速度原理と乗数過程(乗数理論)の相互作用による動学的展開に発展した。《資本と成長》(1965)では固定価格モデルと伸縮的価格モデルの区別を提唱し,その後の不均衡マクロ分析の展開に影響を与えた。…

※「景気循環論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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