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厚生経済学 こうせいけいざいがくwelfare economics

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

厚生経済学
こうせいけいざいがく
welfare economics

さまざまな経済環境において最適な状態は何であるかを規定し,実際の経済で運営されているメカニズムがその最適な状態を達成できるか否か,達成できないときにはどのような政策が必要か,などを分析する経済学の一分野。すなわち社会厚生の概念に内容制約を加えて経済政策が妥当かどうかの基準を確立し,その応用を企図する経済学である。「かくあるべし」という規範命題を追究する学問であって,「こうである」という実証命題を追究する実証経済学 positive economicsと対照をなす。 J.ベンサムを起源とし,ケンブリッジ学派の A.ピグーが『厚生経済学』 The Economics of Welfare (1920) で体系的に展開した。

厚生経済学
こうせいけいざいがく
The Economics of Welfare

イギリスの経済学者 A.C.ピグー主著で,厚生経済学の古典。 1920年刊。 A.マーシャルの経済学に基づいて基数的効用,個人間の効用比較を前提とする厚生経済学を確立した。ピグーは実質国民所得国民分配分と呼び,次の3つの規範的命題,すなわち (1) 他の事情が不変ならば,国民分配分の増大は経済的厚生を増大する傾向がある,(2) 他の事情が不変ならば,国民分配分のうち貧者に属する部分が増加し,分配がより平等になるほど経済的厚生が増大する傾向がある,(3) 国民分配分の変動が少くなるほど経済的厚生が増大する傾向がある,を判断基準として,それらを実現するように公共政策を提案した。

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デジタル大辞泉の解説

こうせい‐けいざいがく【厚生経済学】

社会の経済的厚生を分析の対象とし、経済政策の理論的基礎を明らかにしようとする経済学の一分野。創始者はピグーで、主著「厚生経済学」の題名に由来する。

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百科事典マイペディアの解説

厚生経済学【こうせいけいざいがく】

国民経済の研究において社会の経済的厚生(福祉)を中心問題とする経済学。国民分配分(国民所得)の増加,平等,安定が厚生を増大させるとしたピグーの著書《厚生経済学》がそのはじまり。
→関連項目カルドアサミュエルソン新古典派福田徳三ミクロ経済学

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世界大百科事典 第2版の解説

こうせいけいざいがく【厚生経済学 The Economics of Welfare】

ケンブリッジ学派の経済学者ピグーの主著。1920年刊,第4版33年刊。功利主義の伝統を受けついで,社会のすべての人々の効用の総和を最大にすることが経済政策の目標であるとみる立場から,生産の効率化と分配の平等化のための諸政策を論じている。おもな内容は,(1)福祉と国民所得との関係,(2)資源配分の効率化のための政策,(3)分配の平等化が国民所得の大きさに及ぼす影響,などである。このうち(2)に関連して,資源投入の私的生産性と社会的生産性との不一致が重要視されている。

こうせいけいざいがく【厚生経済学 welfare economics】

規範経済学ともよばれ,所与価値判断に照らして経済組織の運行機能を評価することを課題とする。経済学のこの分野を初めて体系的に取り扱ったA.C.ピグーの主著《厚生経済学》(1920)の標題に従って,厚生経済学とよばれることが多い。 厚生経済学は,特定の価値判断を提唱ないし主張するものではなく,考察に値すると思われる所与の価値判断の帰結を示すことがその課題である。これまでに考察された価値判断の中で中心的なものはパレート改善の基準である。

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大辞林 第三版の解説

こうせいけいざいがく【厚生経済学】

経済的厚生もしくは経済的福祉の最大化を基準にして、経済機構や経済政策の成果の良否を判断したり、その改善の方法を見いだすことを課題とする経済学。ピグー著「厚生経済学」に由来する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

厚生経済学
こうせいけいざいがく
welfare economics

厚生経済学は、通常、A・C・ピグーの主著『厚生経済学』The Economics of Welfare(1920)から始まった経済学の一分野と解されているが、ピグーが同書で導出した命題のかなりの部分は、とくに厚生経済学と銘打つこともなく簡単な形でだが、師のA・マーシャルが述べているし、A・スミス以来の主要な経済学のほとんどすべては、実質上、多かれ少なかれ厚生経済学だ、と説く論者もいる。また第二次世界大戦以後になると、経済政策の基礎理論や規範的経済学一般を厚生経済学とよぶ傾向が広まっており、さらにK・J・アローに始まる社会的選択の理論や、1970年前後に内外でほぼ市民権を獲得したとみてよい公共経済学public economicsをも厚生経済学に含めるか否かについても意見が分かれており、現在、厚生経済学についてほぼだれもが承認する定義は、社会の厚生ないし福祉welfareを問題にする経済分析という非常に漠然とした一般的なもの以外、ないに等しい。
 ピグーについていうと、彼は社会の厚生一般のなかで直接・間接に貨幣で測定できる部分を「経済的厚生」とよび、両者は一般に正(プラス)の相関関係があるという想定のもとに、国民分配分(国民所得)を中心に考察を進め、生産・分配・変動の三面に関する有名な「厚生経済学の三命題」を導出した。このうち変動を扱った部分は『厚生経済学』の第2版(1924)以降、独立の『産業変動論』(1926)に移されたため、以後、厚生経済学としては静学面だけがおもに論じられるようになった。しかし、「他の条件にして等しい限り、社会の経済的厚生は貧富の懸隔が減少すればするほど増大する」という分配に関する第二命題は、ピグーが暗黙裏に想定していた効用の基数性(絶対的大きさでの測定可能性)と効用の個人間での比較可能性の前提がない限り、厳密には導出不可能だが、そのどちらの前提もが経験的には実証不可能であることが、1930年代前半に、K・G・ミュルダール、より直接のきっかけとしてはL・C・ロビンズによって批判された。以後、厚生経済学は、効用の基数性の仮定を捨てて序数的効用概念をとり、また効用の個人間での比較可能性の仮定を必要とする分配問題をほぼ離れて、生産面に分析を限定し、「パレート最適」概念を中心に、補償原理などを随伴する、J・R・ヒックスやN・カルドアらが中心の通称「新厚生経済学」new welfare economicsの局面に移行した。
 新厚生経済学は、当初、効用に関する先の二つの仮定を捨てることによって価値判断から自由になったと想定していたようであるが、社会の経済的厚生を、社会を構成している個々人の経済的厚生の総和とみなす点では、依然として価値判断を含んでおり、この点が1930年代末葉からA・バーグソン(当時はA・バークと称した)やP・A・サミュエルソンらの社会(的)厚生関数social welfare functionの構想を伴う研究によって徐々に明らかにされ、その延長線上に、1951年にアローの一般可能性定理が提出されるに及んで、厚生経済学は、一時、まったく行き詰まったかの観を呈した。
 冒頭に書いたように、現在も厚生経済学が何をさすかは人によって一定していないし、今日の経済政策論では効率と公正の関係が問われたり、次善の理論が論じられたり、様相はかなり多様化しているが、依然そこで中心的役割を演じているのは新厚生経済学の考え方、ことに「パレート最適」概念で、「すべての競争均衡はパレート最適点であり、すべてのパレート最適点は競争均衡である」という命題が「厚生経済学の基本定理」とよばれている。また、公害の分析などで重要な役割を演じている内部・外部経済論、私的限界純生産物と社会的限界純生産物との乖離(かいり)などの問題は、マーシャルに始まり、ピグーが展開した考えの線上のものである。[早坂 忠]
『A・C・ピグー著、永田清監訳『厚生経済学』全4冊(1953~55・東洋経済新報社) ▽今井賢一他著『価格理論』(1971・岩波書店) ▽岡野行秀・根岸隆編『公共経済学』(1973・有斐閣) ▽荒憲治郎他編『経済学2 厚生経済学』(1976・有斐閣) ▽熊谷尚夫著『厚生経済学』(1978・創文社)』

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世界大百科事典内の厚生経済学の言及

【経済厚生】より

…とくに問題となるのは,各個人の効用の総和を経済厚生とする操作の背後にある,個人間の効用を比較できるという判断である。このようなピグーの厚生経済学を批判し,できるだけ受け入れられやすい価値判断だけに基づいて,経済厚生の最大化を考えるのが新厚生経済学である。すなわち,他の人の効用を減ずることなしには,だれの効用をも増加しえない状態を最適とする基準を採用するものであり,この結果所得分配の問題が切り離され,資源配分の問題だけが取り扱われることになった。…

【社会的厚生】より

…いかなる定義によろうとも,社会的厚生は種々の経済的・非経済的な要因に影響を受けようが,とくに直接または間接に貨幣という測定尺度に関連づけられる部分を,A.C.ピグーは経済的厚生と呼んだ。経済的厚生に影響する要因を研究し,それをできるかぎり高めるための制度と政策のあり方を考察するのが,厚生経済学である。 ところで,個人の厚生を定義する一つの方法は,それを個人の自発的選択行動と結びつけることである。…

【ロンドン学派】より

…この派の代表者とみなされているのはロビンズLionel Charles Robbins(1898‐1984)とF.A.vonハイエクである。ロビンズは処女作《経済学の本質と意義》(1932)において,有名な〈経済学の希少性定義〉を与えるとともに,相異なる個人の基数的効用の比較可能性を前提とするA.C.ピグーの〈旧〉厚生経済学の基礎を厳しく批判した。厚生経済学から分配に関する〈非科学的〉価値判断を放逐し,資源配分の効率性の確保にのみ科学としての厚生経済学の可能性を認めるN.カルドア,J.R.ヒックス,A.P.ラーナーらの〈新〉厚生経済学は,ロビンズによるこの批判を契機として誕生したものである。…

【ケンブリッジ学派】より

…マーシャルが主著《経済学原理》(1890)を出版したのはこのような時期であったから,彼は資本家,企業家,労働者という階級間の調和的発展に基本的関心を向け,短期では労資の対抗関係があるようにみえるが,長期では〈国民分配分national dividend〉(国民所得と同義。厚生経済学的に使われた)が増大するため,両者の調和が可能であると考えたのである。これに対し,マーシャルの後継者A.C.ピグーの《厚生経済学》(1920)は,第1次大戦前後のイギリスの経験に立って理論が展開されている。…

【ピグー】より

…著書は30冊に近く,パンフレットや論文は100編をこえる。彼の名を高めた《厚生経済学》(1920,4版1933)は,社会の経済的厚生ないし福祉を最大にするという目標からみて,自由な市場経済のはたらきはどこまで有効で,どこに欠陥をもつかを明らかにし,それを是正するための経済政策の理論を展開している。ピグーはまた早くから労働問題や失業問題に関心をいだいていたが,とくに《失業の理論》(1933)はケインズの激しい批判の対象となった。…

※「厚生経済学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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