多電子原子や分子において,全電子のスピン角運動量の量子数の和(合成スピン角運動量量子数S)が1である状態.このとき,多重度(2S + 1)は3となり,三重項状態といわれる.この状態は,系の電子が偶数個で不対電子を2個もつ場合にのみ生じる.つまり,系の電子を,スピンの方向が互いに反平行であるような2個の電子の組に分けるとき,最後に平行スピンをもつ2個の電子が残る場合である.この平行スピンをもつ電子は,パウリの原理によって同じ空間軌道に入ることはできず,異なった空間軌道に帰属される.偶数の電子を有する分子の基底状態は,一般に一重項状態であるが,酸素分子のように縮退した最高被占軌道に2個の電子が帰属されるときは,フントの規則に従い,電子は平行スピンをもって異なる軌道に帰属されることになり,基底状態が三重項状態になるものもある.一般には,励起三重項状態は励起一重項状態よりも低く,物質の励起状態の性質を理解するうえで重要な意味をもつ.とくに有機分子のりん光は,励起三重項状態から基底一重項状態への遷移に伴う放射として説明されるし,エネルギー移動や光化学反応の機構の説明にも用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
偶数個の電子をもつ原子,分子において,電子の多重度D=2S+1=3となるような,スピン量子数S=1の状態をいう。各電子のスピン量子数は1/2であるから,全電子系のスピン量子数S=1を満足するためには,2個の不対電子が異なった軌道に入っていなければならない。炭素原子や酸素原子のいちばん安定な基底状態は三重項状態である。窒素分子や二酸化炭素のように多くの分子は,すべての電子が対をなしている一重項状態であり,第一励起状態が三重項間にあるが,酸素分子のように三重項状態のほうが安定な分子もある。一重項と三重項間の遷移は一般に起こりにくい。たとえば,ベンゼンの第一励起一重項状態の寿命は100ns(1000万分の1秒)であるが,第一励起三重項状態の寿命は4.2Kにおいて11秒と測定されている。三重項状態にある分子を磁場に置くと,縮退していた状態が三つに分裂する。これらの間の状態の電子スピン共鳴(ESR),吸収スペクトルの測定によって,その電子状態が研究されている。
→励起状態
執筆者:正畠 宏祐
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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