翻訳|photolysis
光化学反応のうち、光を吸収することによりおこる分解をいう。直接光分解と光増感分解に大別される。直接光分解は光を吸収した分子そのものが分解する反応であり、光増感分解は光を吸収した光増感剤からのエネルギー移動によって他の分子がエネルギーをもらって分解する反応をいう。アインシュタインの光第2法則によれば波長200、300ナノメートル(紫外線)、400、500ナノメートル(可視光線)はそれぞれ598、398、299、239キロジュール(kJ)/アインシュタイン(E。1E=6.02×1023個の光量子)のエネルギーをもっている。有機化合物の共有結合の解離エネルギーは1モル当りおよそ150~568キロジュールであり、光量子のエネルギーが結合エネルギーを上回るので、この波長範囲の光は化学結合を開裂させて光分解をおこさせるのに十分なエネルギーをもっている。また分解には、ラジカル的分解とイオン的分解の二つの形式があり、光励起状態が一重項であるか三重項であるかに密接な関係がある(セイレムの理論)。ラジカル的分解とイオン的分解の区別について1例をあげると、臭化水素HBrをHとBrに分解する反応は、水溶液中では次の反応式により進行して、H-Br結合はH+とBr-に分解される。この際にH-Br結合を形成していた2個の価電子は両方ともBrに移りBrは負電荷をもち、電子をBrに与えてしまったHは正電荷をもつ。このように結合が切れてイオンを生成する反応を結合のイオン的分解といい、これと対照的に、気体のHBrに光を照射すると、H-Br結合は価電子(・)を1個ずつ分け合って1個の水素原子H・と1個の臭素原子Br・に分解する。この分解ではH-Br結合が切れて二つのラジカルになるので、ラジカル的分解とよんでいる。カルボニル化合物のα(アルファ)結合開裂、脱カルボニル反応、アジドおよびアゾ化合物の脱窒素や過酸化物の分解などは代表的な光分解反応の例である。アゾビスイソブチロニトリルの光分解によりラジカルを生成する反応はラジカル重合を含む種々のラジカル反応の開始剤として重要である( )。
[向井利夫・廣田 穰]
光化学反応によって起こる分解と光核反応とがある。
(1)光化学反応によって起こる分解photolysis(photodissociation)は,無機物質,有機物質を問わず,きわめて多くの例が知られている。一般に,熱的な加熱による分解は,分子中のいちばん弱い結合が切れやすいが,光分解の場合には,光の波長によっても異なるが必ずしもそうでない場合がある。光分解によって生成した原子,分子,遊離基を総称して光分解片という。最近の各種の高感度検出技術の発展によって,とくに気相の光分解過程について,生成した光分解片の種類,その割合およびエネルギー状態などの詳しい知見が得られるようになった。たとえば,ホルムアルデヒドCH2Oは,希薄気体中で,3530Åの光照射によってCO+H2のような分子分解片が生成するが,2839Åの光照射によってはHCO+Hのような遊離原子,分子が生ずることがわかっている。ところが,比較的高い圧力では,光分解によって生成した遊離基がさらに他の分子と反応するので,光化学の後続反応も含めると複雑になることが多い。
(2)陽子,中性子,α粒子などの結合エネルギーよりも大きいエネルギーをもつγ線が原子核に吸収されて,これらの粒子が放出される反応を光核反応nuclear photodisintegration(photonuclear reaction)という。分子の光分解の場合と同様に,γ線の吸収による原子核の分解は,核子間およびγ線と核子との間の相互作用がよくわかっているので,原子核の性質を知るうえで重要である。
執筆者:正畠 宏祐
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光を吸収することにより起こる分解.直接光分解と光増感分解とに大別される.前者は光を吸収した物質が分解する場合であり,後者は光を吸収して生じた励起光増感剤からのエネルギー移動,または化学反応により反応物質の分解が起こる場合である.いずれにしても光分解は,初期過程によって生成した励起分子や遊離基などを反応中間体として含み,反応機構が複雑なことが多い.一般に,光分解は結合解離エネルギー以上の波長の光を吸収した場合に起こる.また,光分解の収率は波長が短いほど大きい.紫外や真空紫外領域の光が,光分解の研究によく使用されている.
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…(1)光化学反応によって起こる分解photolysis(photodissociation)は,無機物質,有機物質を問わず,きわめて多くの例が知られている。一般に,熱的な加熱による分解は,分子中のいちばん弱い結合が切れやすいが,光分解の場合には,光の波長によっても異なるが必ずしもそうでない場合がある。光分解によって生成した原子,分子,遊離基を総称して光分解片という。…
…物質が光を吸収してできた励起種が直接的にひき起こす諸過程を光化学前期過程といい,これにひき続いて起こる過程を光化学後続過程というが,光化学反応はどちらの過程でも起こる。光化学前期過程で起こる化学反応には,(1)光分解,(2)光異性化,(3)光励起分子と他の分子との衝突による反応などがある。(1)の光分解には,直接光分解(たとえばヨウ化水素の260nm領域における光分解で,10-13秒以内に分解する)と前期解離とがある。…
※「光分解」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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